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+++無垢なる贄の仔  11〜   +++ (ゴールはアシュルク目指して、ガイ→ルク)



+++11 ここもそこも変わらない



 溜息をつかれたことに敏感に反応してルークは俯いてしまった。
「ルーク」
 アッシュが改めて名前を呼んだ。
「何?」
 ルークは瞳を輝かせてアッシュを見上げる。そこには何の迷いもなかった。
「お前は償いをしなければいけないと言っていた」
 ルークの表情は途端に苦痛に歪み頷いた。
「なんでもするか?」
「もちろん!」
 犬が飼い主に向かうようにルークは従順に頷き、続きの言葉を待っていた。
「具体的には何をするんだ?」
 アッシュの問いにルークは硬直し、不安そうに瞳を泳がせた。
「わからない…おれ……」
「ならば俺についてくるか?」
 ルークの表情がぱっと輝いた。ジェイドが不満そうにあからさまに溜息をついた。
「それはダアトへ行くという意味ですか?」
「ダアト!!」
 ルークがその言葉を聞いてますます瞳を輝かせる。
「俺!アッシュとダアトへ行けるのか?!!」
「おいおい……いくらなんでもそれは無理じゃないのか?」
 ガイが呆れを滲ませた声で無理だと断言した。ルークは反射的にガイを見上げ、何かを思い出したように咄嗟に視線をそらし辛そうに唇を噛みしめて俯いた。
「そうでしょうね。私が許しません」
「ジェイド……」
 許さないと言われルークはジェイドに縋るようにその名を呼んだ。
「貴方はマクルト領を崩壊させた罪人ですよ。そんな方をダアトへなど亡命するのをわかっていて見逃すことはできませんよ」
「言いたいことはそれだけか?だいたいアクゼリュウスを崩落させたのはヴァン総長と言うことで了解したんじゃなかったのか?さっさとヴァンでも捕らえに行け」
 アッシュは扉を指差してさっさと出て行けとジェスチャーした。ジェイドがつまらないとでも言いたげに薄い笑みを浮かべた。
「俺……償いはする。だけどアッシュを助けたいん……だ!!お……おれは逃げたいとかじゃない……」
 ルークはゆるゆると首を横にふり、以前に夢みていた自由を手に入れるために行くのではないと言った。アッシュがルークの肩を叩いた。
「ああ……俺を助けてくれるんだろう。ヴァン総長が何をしようとしているのか俺は知りたい」
「もちろん!俺!アッシュを助ける。俺なんでもする」
 ジェイドが不満そうにそんな二人を見つめていた。
「結局、依存先を変えただけですか……」
「ルーク……」
 瞳を輝かせてアッシュを見上げているルークを心配そうに見ていたガイがジェイドの言葉に敏感に反応した。
「依存……まさか……アッシュお前」
 アッシュは鼻で笑う。
「俺が信用できないっていうのなら、俺は別にこいつの面倒なんぞ見なくてもいいんだぜ。ガイ、お前が依存されたかっただけじゃねぇのか?え?」
「俺はアッシュと一緒だと駄目なのか?」
 ルークが心配そうにガイを見上げた。
「俺、役立たずだからアッシュの迷惑になるのか?俺……一人で……」
 ルークは不安そうに視線を泳がせた。もしかしてという思考に囚われてしまったらしい。
「俺、どうやって償ったらいいのか分からない……ヴァン師匠に聞いたらわかるのかな?」
 不意にルークはベッドから下りると部屋の扉へとふらりと向かった。ガイが呼びとめた。
「ルーク。どこへ行くんだ?」
「俺、償いをしないといけないんだ。アッシュを助ける約束だってしたしヴァン師匠にお詫びして俺はやり直しする」
 ルークはそう言うとはにかんだような笑みをアッシュへと向けた。
「償いってそういうことだよな?」
「まだわかってねぇのか?ヴァンはお前をあの時殺すつもりだったんだぞ」
 アッシュはルークへと大股に歩み寄るとその襟を掴み上げた。ルークはそのアッシュの手に自分の手をそっと重ねた。
「それもちゃんと聞いて確かめる。これからどうするつもりなのかも聞いてくるよ。アッシュが俺にしてほしいことってそういうことなんだろ?」
 諌めるように重ねられた手をアッシュは振り払い、ルークから離れた。
「あいつが本当のことなど言うわけがないだろ。俺がほしいのは客観的な情報だ」
 ルークは緩く首を横に振った。
「俺にできるのはそれじゃないよ。それはアッシュのできることだろ?俺はお前を助けたいんだ。できることは少ないけどさ」
 ルークは晴れやかな笑みをアッシュに見せた。後ろ手に扉を開けるとそのまま隙間から抜けるようにするりと部屋を出ていく。残像のように長い朱い髪が靡いて扉に吸い込まれた。扉は音もなく静かに閉じられルークは出て行った。あまりの迷いのない行動に誰もが反応が遅れ扉が閉まってからガイは慌ててルークを追って部屋を出た。
「ルーク?!!」
 ガイが名前を呼びルークを探す声が廊下に反響するのが扉越しに聞こえる。惑う声にルークの姿を見つけることができなかったことが知れた。


++++





+++12  旅立ち



 船室から出てしばらく走ると息が切れる。街へ向かおうと廊下を歩いているとティアに出会った。
「あ……ティア……」
 ルークは躊躇いがちに名前を呼び、そして怖くなって目をそらした。
「ご主人さま〜vご無事でよかったですの!!」
 ティアと共にいたミュウがうれしそうにルークに飛びついた。
「お!おお……ありがとうな。ミュウ」
 ルークは戸惑いながらも胸に飛び込んできたミュウの頭を撫でつけた。
「意識が戻ったのね!よかったわ」
 ティアの声は弾みそのままルークの腕を引き走り始めた。
「え?なに?」
 ティアにまた責められるか怒られると思っていたルークは反応が遅れる。
「急いで、ユリアシティから出るのよ。あなたが預言に死を詠まれていたことを知った人達があなたを殺そうと探しているの。それで私、貴方達に知らせようと思ってここへきたのよ」
「急ぐのですの!」
 ミュウもこころなしか慌てた様子で先を急ぐ。ルークは二人の勢いに飲まれ同じように走った。しばらく廊下を進み窓のある廊下へと出た。ティアはタルタロスの外を覗き込み追ってがまだ来ていないことにほっと息をついた。持っていたルークの荷物入れからマントを取りだすとルークに被らせた。
「貴方の朱い髪は目立つから隠しておいて、それとこれはあなたの荷物よ」
ルークはフードの中に髪を隠し見えないようにする。手渡された荷物入れを握りしめ頷いた。
「これからユリアロードで貴方を外殻大地へ送るわ。とにかくここから離れるのよ」
 ルークは疑問を口にする余地も与えられないまま、また腕を引かれ走りだした。


 ユリアロードという回廊を通りぬけてルークは外殻大地へと一人帰ってきた。
「みんなは大丈夫なのか?俺だけ逃げるなんて……」
 ユリアロードで準備するティアにルークはやっと気がかりだったことをティアに尋ねた。
「預言に死を詠まれていたのはあなただけよ。あなたといる方が危険だわ」
「預言に詠まれているなら俺は死ぬべきなんじゃないのか……?」
 ティアは驚いてルークを睨みつけた。
「死にたかったとでも言うつもり?それこそ逃げじゃない!!罪を償いもせずに!!だいたいあなたはレプリカで本物じゃないんだし……預言は違うんじゃないかしら?」
 ティアは迷いの含んだ声でそう言い。
 あなたは偽物だったんだもの……とティアは己に言い聞かせるように小さく呟く。ルークは逃げるのは嫌だともヴァン師匠に会いに行きたいのだとも言えなくなった。
「本物は……」
 ティアの言葉に本物のルークは大丈夫なのかと心配になったルークは、それだけは確認しておきたいとティアへと疑問を投げかけた。
「彼は神託の盾アッシュとしてこの街にいる限りは大丈夫だと思うわ。探しているのはルークだもの」
 ティアは大きく頷いて見せた。
「私は貴方が無事に外殻大地へともどったことを大佐達に伝えておくわ。南東へ向かうとダアトだから……気をつけて」
 別れ際にティアは慌ててそういうと足早に着た道を戻っていった。
 「南東がダアト」のティアの言葉だけを頼りにルークは当初の目的であるヴァン師匠に会うためにダアトを目指した。


 「ご主人さま〜」
 不安そうにミュウがルークにしがみついていた。小川の流れに沿ってしばらく歩くと魔物の気配が濃厚になってきていた。
「大丈夫だって。剣もある。お前もティアと一緒に戻った方がよかったんじゃないのか?」
「だめですの〜僕はご主人さまと一緒にいるですの〜!」
「なら荷物入れにでもはいってろよ。お前くらい守ってみせるさ」
 ルークはミュウと同じように不安になる気持ちを奮い立たせて笑顔を作った。ミュウを荷物入れに入れるとルークは歩調を速めた。




++++





+++13 旅立ち2


 魔物でも切り捨てることに躊躇が生まれる。踏鞴を踏むと歩調でわかるのだろう。荷物入れの中からミュウが気づかうように声をかけてくる。
「ご主人さま〜大丈夫ですの?やっぱり僕も闘うですの〜!」
「大丈夫だって言ってるだろうが!うぜーよ!」
 ルークは空元気でもそう言葉に出すと、荷物入れの中のミュウを小突いた。
 ごめんなさいと心の中で祈りながら剣を手に魔物を切り捨てるうちにしだいに迷いも消えていく。不思議なことに魔物が一定の距離を保ち襲ってくる数が減った。
「死にたくなかったら向かってくるな……」
 ルークはそう怒鳴るだけの覚悟ができていた。



 ルークは森を抜けて港から来る巡礼の列へと合流した。魔物の血や泥で汚れた姿はあまり見れたものではなかったが、巡礼の人々も同じように汚れた姿をしていたので目立つ事はなかった。
 人の流れに流されルークはローレライ教会へと向かった。途中で神託の盾兵が立っているのを見つけ声をかけた。
「ヴァン師匠に会いたいんだ」
 兵は何の話だと疑問を表情に表していた。
「だから……ヴァン師匠に……」
 名前を連呼して確か総長という役職であったことを思い出した。ルークは背筋を伸ばして兵をまっすぐに見て問い直した。
「ヴァン総長はどちらにおいでですか?」
 総長という役職でヴァン総長であると理解した兵は手にした槍を構えなおし問うた。
「何用か?」
「お尋ねしたいことがあります」
「それだけでは教えることはできない」
 何用かと問われてルークは返答に困った。率直に尋ねたいことがあるとだけ伝えると兵は眉を顰めた。落胆するルークの様子をみて兵は同情したのだろう。
「騎士団事務局で面接の受付をするといいだろう。いつになるかわからないがねそれが一番早いだろう」
「あ、ありがとう」
 新たな方法を教えられてルークはひとまずほっとするがいつになるかわからないという。急ぐわけではないが、アッシュの様子では早く知る必要があるようだった。
「ティアにヴァン師匠に会う方法を聞いて来ればよかったな……」
 ルークは兵に背を向けて呟いた。今更悔やんだところで仕方ない。本部とやらに行き受付を済ませてしまおう。
 巡礼の人々から離れてルークは教えられた本部受付へと向かった。そういったことをしたことがないので、不安そうに尋ねると親切に手続きを教えてくれた。あまり綺麗とはいえない字で書類を書き込み提出した。
「いつ頃に会えるかな?」
「申し訳ありませんでした。受付は必要ですが、ただ今ヴァン総長はベルケンドへ視察に出かけられてしばらくお戻りになられません」
「え?!ダアトにいないのか?!」
 ルークは脱力する。苦労の末にここまで来たにも関わらず、会えないことが確定した。ベルケンドとはどのあたりだっただろうか?ルークは地図を思い浮かべ呆然とした。
 ベルケンド行きの船が港から出ていることを教えてもらいルークは港から船に乗り込んだ。なぜか到着したのはシェリダンだった。
「どうしてベルケンドに着かないんだよ!!」
 ルークの怒りに対しての船頭の返答は「シェリダン行きだからさ」とそっけない。乗り間違えたらしい。ベルケンド行きの船着き場に行くと船賃がいくばくか足りないことに気づいた。

「ヴァンセンセ……」
 ルークは思わず海を見て呟いてしまう。どこかでお金を稼ぐしかない。魔物を倒すといいと助言を受けて仕方なくルークは街を出た。




++++





+++14 再会


 旅人を襲っていた魔物を倒してなんとか船賃をつくりルークはまた港へと向かおうとするが、なぜか今度は魔物にやたらと出会ってしまう。
 もうたおさなくてもいいのに……と思いながらルークは魔物に追われるように森の奥へと追いやられてしまう。

 心細い数日を森の中で過ごした後、人の気配がしてルークは駆けだした。神託の盾兵の鎧姿が見える。その奥には慣れ親しんだヴァン師匠の姿があった。
「ヴァンせんせ〜〜!!」
 ルークはヴァンに会いに来た理由を忘れて、思わず懐かしさと安堵とがないまぜになり声をかけて駆け寄った。
 ヴァンはゆっくりと声のする方へと身体を向けた。ルークはその姿を見ると知らずと目頭が熱くなった。
「ヴァンセンセ!!俺!」
 疲労を考えずに駆け寄ったためにルークの足はもつれ転びそうになる。いつものように笑みを期待して顔を上げた。ゆっくりとルークを見聞したあとヴァンは吐き捨てるように言う。
「レプリカか……」
 冷たい視線がちらりと向けられた。ルークは足が地面に縫い付けられたように感じた。足がそれ以上前に進まない。ヴァンはあの時の失敗のことを怒っているとルークは感じた。
「せんせぃ……俺……言われたことが上手くできなくて……」
 ふと思い出したというようにヴァンの足が止まった。
「おや……レプリカは独りか?他のものはどうしたレプリカ一人が生き残ったのか?オリジナルを殺してレプリカであるお前がのうのうと生きているというのか?」
「ちがう!!みんな死んでない俺だけが助かったんじゃないんです。ティアに助けられて俺達……」
「ならばなぜお前は今ここに、独りでいる?……なるほど。劣化レプリカは不要だと見捨てられたか?」
 ヴァンは独り納得したと言わんばかりに頷いている。ルークはヴァンの言葉にタルタロスでの冷ややかな視線と言葉を思い出してしまい反論できずに口ごもった。
「やはりな……メシュテアリカもこのような者を助けずとも良いものを、優しい子であるから仕方ない」
「見捨てられてない!!……俺、せんせいに聞きたいことがあってそれで来たんです。俺自分で師匠に会いに来たんです!!」」
 ヴァンはさもおかしいことを聞いたと言うように笑った。
「レプリカが同行者達を見捨て独り、私の元へ来たと言うのか?」
「え?」
 ルークはヴァンの言葉を聞き返した。
「見捨て独りここへ来たのであろう。もしやオリジナルに居場所を取り戻されたか?……いずれにせよ戻れぬということであろう」
 ヴァンは愉悦に満ちた笑みを浮かべ、ルークを見下ろした。
「俺……俺……見捨ててなんか……」
 ルークは動揺を隠せずに震えた声で反論をする。
「ならばなぜ独りだ?従者であるガイはどうした?従者を見捨てて一人逃げてきたか?私の元に下り使ってくれとせがむつもりであろう?」
「ちがう!!俺は見捨ててなんかいない!!そんなこと……」
 ルークは震える身体を止めることができず、必死で首を横に振った。
「ならば貴様が見捨てられたか。なるほどそれならばガイは供に来ぬであろうな。だが、それも偽物のレプリカならば仕方ない。ガイを責めるのは酷というものだ」
 ルークは混乱する。なぜ今一人なのだろうか、孤独で大変な思いをしてまでここまで一人で来たのはなぜだっただろう。
 ユリアシティで追われ、ヴァン師匠に真実を問いたいと追いかけてきた。みんなの誤解を解くためにもヴァン師匠の口から真実を聞く必要があった。障気を消すはずであったのだと。
 ただ、今のヴァンは以前とは違う人のようだった。アッシュの言うことが正しいように感じられた。ヴァン師匠はルークをはじめから使い捨てるために創ったのだという言葉が真実味を帯びてルークを苛む。そんなはずはないとルークはヴァンへと縋るように問いかけた。
「せんせぇ俺……言われたとおりに上手にできなくて、鉱山の街が落ちて、ぜ、全部壊れて、それで人もたくさん死んでしまったんです。俺どうしていいのかわからなくて……どうやったら元に戻るんですか?俺どうすれば償えるんですか?それを教えてほしくて俺……センセに会いに……っ!」
 素知らぬ顔をするヴァンにルークは切々と訴えた。
「はっ!まだそのようなことを言っているのか?パッセージリングが壊れた今となってはどうしようもあるまい。あのように破壊してしまうとは、レプリカには荷が勝ちすぎた仕事だったというだけのことだ」
 ヴァンは迷惑そうに縋りつくルークの髪を引き己から引き離した。やはりルークが失敗しただけでヴァン師匠はアクゼリュウスを救うつもりであったのだ。障気は超振動で中和できる。ルークはやはり失敗したのだ。ヴァン師匠の言う通りにできなかった。それゆえにあのようなことになってしまった。
 ヴァン師匠はルークを騙してなどいなかった。それは今のルークにとって大きな救いだった。ヴァン師匠の期待に応えられず師匠は怒っているのだとルークは理解した。
「レプリカでもできると読み間違えた私の失策であった。しかも生きているとはな。障気の浄化ができずパッセージリングを破壊したのみならず、預言からオリジナルを守れぬとは……まったく役立たずよ」
 ルークは髪を引かれたまま痛みで滲んだ瞳のままヴァンを見上げ続けた。
「預言からオリジナルを守る?」
「ああ、貴様があそこでルークとして死んでおればアッシュは預言から外れ、助かるものを」
「せんせぇは俺を死なせるためにあの街へ行かせたのですか?」
 やはりとルークは膝の力が抜けてヴァンに髪を引かれたまま座りこんだ。
「ああ、そのためにレプリカをつくったのだからな。レプリカ風情は超振動の使用に耐えきれずに消えると思ったのだが、だがお前がここにいると言うことは計画は失敗したということだ。オリジナルが今ごろ預言通りに死に瀕しているやもしれぬな。まったくあの子は優しい子だ。レプリカにまで情けをかけ己を危険にさらすとは……」
 ヴァンは感慨深いというように天を仰いだ。
「アッシュが死に瀕している?」
 ルークはヴァンの言葉が理解しきれずに繰り返した。アッシュが死ぬ。それはとても恐ろし事に感じた。身体が知らずと震え始める。
「そうであろう。お前が代わりに預言通りに死に、オリジナルを生かすはずであったのだから生き残るのはどちらかだ」
「俺は記憶じゃないから消えないってアッシュが……」
「ははは……お前の言っていた『記憶が戻れば消える』か?記憶ではないからな。だが預言にはどちらかが消されるであろうよ。預言はそんなに甘くはない」
 ヴァンは確信をもって言いきった。
「俺が消えないとアッシュが死ぬってことですか?師匠」
「うむ、そうなるだろう」
「そんなのヤダ!アクゼリュウスが元に戻らないうえにアッシュまで死ぬのは嫌だ。師匠俺はどうしたらアッシュを助けられるのですか?」
 ヴァンは初めてルークを見た。
「レプリカが助けるとはどこまでも傲慢な愚か者め。まぁよい。お前にその気があるのならば使ってやらぬでもない。裏切り者のレプリカは行くところがないらしい。せいぜいオリジナルの役に立つがいい」
 ヴァンはルークの長い髪から手を離すと近くの兵へと向き直った。
「俺はせんせぇとは行かない……俺は……ア……」
 脱力したまま地面に座り込んでいたルークは不意に頭痛に襲われた。ルークは頭を抱えてその場で身体を折った。
「あ……頭が痛いっ!」
「またいつもの頭痛か?まったく劣化品は」
 ヴァンは呆れたように視線をそらし、兵への命令を続けていた。




++++






+++15 再会2



 一緒に行くんだと口にしようとした名前の主アッシュの声が脳内で響いた。
『ヴァンといるのか?ルーク』
 ユリアシティで別れてからはじめてのアッシュの声にルークは涙が零れそうになった。アッシュがルークが急にいなくなったことで心配していたことを感じる。
『アッシュ無事だった。よかった……』
 胸に広がる安堵に―アッシュを助ける―ルークのその決意が強くなった。
『これからの計画についてわかったか?』
『それはまだ……ヴァンせんせはやっぱり……』
 やはりルークが失敗しただけだったとはいいだしにくくルークは口ごもった。
『アッシュ……お前に危険が迫ってるって……』
『?』
『預言が……』
『ああ……あれか……お前が気にすることはないそれよりお前だ。ヴァンは危険だ。気をつけろ』
 アッシュは問題ないことだと笑っている。ルークは納得いかずアッシュの言葉の半分も理解できないまま頷いた。
『わかれば情報を俺に流せ。また何かわかったころに回線を繋ぐ』
 アッシュは言いたいことだけ伝えると慌てた様子で接続を解除した。
「あ……」
 名前を現実で口に出しそうになりルークは咄嗟にそれを抑えた。なにかあったのだろうか?ルークは不安に苛まれる。回線を繋ごうとしてもルークからは繋げることができない。アッシュの名前を叫びながら暗い空間にはルークは独りきりで立っている錯覚の襲われ背筋が寒くなった。
「見捨てられた……?」
 ヴァンに言われた言葉が重く圧し掛かって来る。そんなことないとルークは緩く頭を横に振った。ルークは己が影に入ったことで顔を上げた。ヴァンが少し離れた位置に立ち、ルークに手を差し伸べていた。
「ルーク、こちらに来なさい」
「せんせぇ……師匠はこの後どうされるのですか?」
 ルークはゆるゆると立ち上がりながらヴァンに尋ねた。先程までと違い昔のような優しい笑みをヴァンはルークへと向ける。
「ルークにやってもらいたいことがある。今回は私も同行しその方法を教える。次からはお前に部下を付けてやるのでその者達と私の命令を実行しなさい」
「でも……」
 ルークは不安を覚えて承諾に躊躇する。
「そうすればアッシュも助かるやもしれぬぞ」
「アッシュが?」
「そうだ。お前は償いたいとそしてアッシュを助けたいと言ったな」
「はい。それはどうすればいいのか教えてください」
「ならば私の言う通りにしなさい。私とてあのような惨劇になってしまったことは心を痛めていたのだ」
 ヴァン師匠は顔を辛そうに歪めた。
「先程はお前にその罪深さを理解してほしくて冷たく当たったが、お前はよくそれを理解し償うために私の元へとやってきた。私はそんなお前を誇らしく思う。良いか私の言うとおりにするのだ」
 ヴァンは威圧的な目でルークを見下ろした。やはり目は笑ってはいなかった。
「でも……俺は」
「償いをするのであろう?」
 ぐずぐずと了承をしないルークに痺れを切らしたヴァンはルークの肩に手を置いて笑みを浮かべた。
「ルークお前は疲れているようだ。しばし休め。それからゆっくりと話をしようではないか」
 ヴァンはそういうとルークを衛生兵に引き渡し、ゆっくりと休ませるように命じた。
「俺は今知りたいんです」
 衛生兵に引き渡されながらもルークはなおも追いすがった。
「駄目だ。今のお前は冷静な判断ができるとは思えん」
「せんせぇ……」
「そう焦らずともお前が休み冷静な判断ができるようになるくらいの時間はある。目的地につけば呼びにやる」
 ルークは衛生兵に引きずられるようにして馬車に連れられ、栄養剤だと飲み物を渡された。疲れていたためかしばらくすると意識が引きずられるように闇へと落ちていった。師匠の言う通り少し疲れていたようだとルークは揺れる馬車にその身を預けた。
「おい、食事だ。口を開けろ」
 肩を叩かれルークは重い瞼を上げた。命じられるまま口を開くとスープを流しこまれる。ほのかに暖かい食べ物にルークはほっとする。次と言われまた口を開くとひと掬い流しこまれる。
 朦朧とする意識のまま進められるまま口を開け食事を流しこまれた。ヴァン師匠はどこにいるのだろう話を、師匠は何をしようとしているのかそれを聞かねばならない。
「せんせぇ……」
「ヴァン総長は任務中です」
 律儀に答えを返してくれる衛生兵は空になった食器を抱えて馬車を降りて行った。



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どこまで続くかは不明ですが、ぽちぽちと書いていく予定です。書けたら上げていくことになるので、途中で修正が入ったりするかと思いますがそんな感じで(どんな感じ?)よろしくおつきあいいただけると幸いです。どうもありがとうございました。 090328



  
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