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人形に穢れをうつして流すんだって、そうすれば穢れと災いはうつって綺麗になる
穢れと災いは人形が代わりに持っていくんだって
そんな話を聞いたのはずいぶんと昔のことだった。
俺がまだ言葉を理解し始めた頃であまり言っていることはその時は理解できなかったけれど、大切なことだと言うのはわかった。
髪に絡む指が少し楽しくてしかたなくって笑っていたことも覚えている。
なぁ。ホドの伝統行事なんだって、知ってる?
そう聞く間にも口づけに忙しく。何度も言葉を途切れさせることになった。ほらまた穢れがこの身に宿った。触れてしまって穢れが戻らないかと心配したこともあったが、そう思っている間にもまた口づけが繰り返されて。まぁいつかこちらに還って来るならいいか。
「なんだ?」
「ガイはホドの出身なんだろ?ホドの伝統行事なんだって」
「出身とはいっても5歳までだからな……で、行事ってなんのだ?」
「雛流しって知ってる?」
「ああ……やったことはなかったが、知っている。雛流しは廃れてしまっていたから雛祭りは姉上がやっていたな」
「そっかやっぱり本当にあるんだな」
ルークはふっと口元だけ笑みを浮かべた。
「それがどうした?」
「ううん……」
ルークは緩く首を横に振る。髪がシーツを打ち、乾いた音を立てた。
「なんでもない」
ルークは求めるように腕をガイへと伸ばした。
穢れを全部ください。貴方に苦しみが残らないように、これから先に幸いしか残らないように、全部俺が持っていくから、穢れを全部ください。
ルークは祈るように瞼を閉じた。
労わるように優しくガイがルークに触れる。瞼に軽く触れるキス。
「誰にそんな話を聞いたんだ?ジェイドか?」
ガイは俺の髪を指で梳きながら尋ねた。その感覚があまりにも似ていて思わず答えるつもりもなかったのに口から答えが零れていた。
「父上……」
「公爵が?ホドの話を?それはないだろう。ルーク」
「そ……っかそうだよな。じゃ……誰だろ?伯父上かな?」
「覚えてないのか?」
「うん……なんとなくイメージが残ってるだけ……誰だっけ?」
ルークは考えようとするが、眠気のために瞼がその途中で落ちては開くを繰り返していた。ガイは口づけを一つして、ルークの眼の上に掌をおいた。
「疲れたろう……寝ていいぞ」
「うん……おやすみ……」
「いい夢を……ルーク」
ガイが髪を指で梳き髪に口づける。
「うん……いい夢をガイ……」
ルークはそう言いながらも泥のような眠りに引きこまれた。
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