+++主人と騎士  ヴァンセンセがガイの騎士だと知った時  お笑い






 ガイはルークの唸り声で目を覚ました。またルークがうなされている。アクゼリュスの崩落以降うなされてない日はないのではないかというくらいに、ルークの夢見は悪い。
 いつもなら詫びの言葉を繰り返して涙を流すルークを覚醒させるのだが、今日はいつもと何か様子が違った。
 ダアトの宿の壁はさほど厚くはない。隣から苦情が来る前に起こしてやらなければ…
「ガイー!だめだ!!髭〜!嫌だ〜〜!!ガイっ!!」
 珍しくガイの名を叫んでいる。髭ってなんだ?逃れようと身体をよじりながら腕を振りまわしていた。慌ててガイはベッドから起きあがりルークの肩を叩いた。
「ルーク!」
 瞼が開きカッと見開いた目がガイを捉えた。焦点が合いガイの姿を認識したのだろう。しだいにその翠の瞳は潤み涙を湛えた。
「よかった!ガイだ〜〜〜!!」
 子供のようにガイにしがみつく。ルークはほっとしたようにガイの名前を何度も呼び、その姿を確認する。
「ああ…俺だよ。ガイはここにいる。ルーク」
 背中をいつものように軽くリズムをもって叩く。きっとガルディオス伯爵家の者で、キムラスカに復讐を誓っていた者だという事実がこの子供には大変な不安を抱かせたのだろう。何度でもいう。
「俺はお前の傍にいるから、安心しろ」
 もしかするとヴァンデスデルカの主人であったということに不安を覚えているのかもしれない。お前を裏切ったりはしないと言葉で伝えても、そんな簡単にはルークの不安は払拭できなかった。そのことに不甲斐なさを感じる。
「そんなの当たり前だ。ガイはずっと俺の側にいるんだからなっ!」
「ああ…そうだな」
 ルークは満足したように頷き、そして不安そうにガイの顔をまじまじと見つめた。
「そんなに怖い夢だったのか?」
 ルークは頷くと髭が…と呟いた。
「髭?」
「ヴァン師匠がお前と俺みたいな関係だったって…」
 ああ…やはりそのことを気にしていたのか。
「大丈夫、もうヴァンには剣を返したからな。もう俺の剣はお前に捧げたんだ」
「うん…だからさ」
 ルークは泣きそうな顔でガイの顔を両手で包んだ。
「だからさ!ガイもいつかはヴァン師匠みたいになっちゃうのか?!そんなのヤダよ〜〜!!」
「は?」
「俺とガイはガイと師匠とおんなじなんだろ?ガイが師匠みたいにごつくなって髭になったらどうしようと思ったらすげー怖くって。絶対になるなよ!絶対にだぞ!絶対、髭禁止だからな!!」
 あっけにとられてルークを見下ろしていた。
「なんだよぉダメなのかよ〜TT代わりに俺がちゃんと師匠みたいになるから!それだったらいいだろう!俺はヴァン師匠に憧れてたし、大丈夫10年もすればきっとごつくて髭になるからな!」
 高揚のあまりに頬が紅く色づききらきらとした瞳で決意を表明するルークに髭を想像してガイは少なからずのダメージを受けた。
「いや、むしろそれこそ遠慮したいよ。ルーク。まだまだかわいいままでいてくれ」
 頭をぽんと叩いてやった。
「なんだよ。そのかわいいって子供扱いしやがって!俺は髭を生やすぜ。絶対にな」
「まぁ似合う年になったらそうすればいいよ…」
「だけどガイはだめだからな。ヴァン師匠みたいなのに髪の手入れしてもらうとかってすごく変だ」
 そんな年までずっと俺に世話を焼かれて、同じような生活をしてると思ってるわけか…このお子様は。世界が終るかもしれないっていうときに、そんな甘い未来を夢見られるならまだまだ希望は十分にある。
「そっだな。そうならないように少しは自分でできるようになれよ」
「…」
「にんじんも残さないようにな」
「む」
「ほら、もう寝たほうがいいぞ」
 ルークは何も言わずにベッドの半分をあけて入れと意思表示する。ガイもそれ以上は何も言わずに開いたスペースに身体を潜り込ませた。
 子供の体温はとても暖かかった。抱きしめてやるとルークも安心したように瞼を閉じた。
「もう大丈夫だろ?」
 ルークは頷くとそのまま寝息を立て始めた。


 ずっとこんなあたりまえが続く日々が未来であればいい…





+++END




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