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+++親善大使様の冒険 7








 ルークは心地よく揺れる馬車の中で考えていた。
 ガイと計画していた外に出たらやること一覧を持ってこれなかったことが本当に残念でならない。確か、まずは魔物を倒す。魔物もいろんな種類をレベルごとにランク付けしてあったのにさすがに全部は覚えていない。昨日倒した魔物を忘れないうちに日記に書いておきたい。ガイに自慢してやろう。一緒に倒すはずだったからちょっと悔しがるかもしれないが、さっさと迎えに来ないガイが悪い。次の機会には付き合ってやってもいい。

 それから、海を見に行く。船に乗る。馬車に乗る。これは叶っている。思ったほど乗り心地は良くない。昨夜は暗い中ずっと歩いていたのでさすがに疲れた。ごとごとと揺れると少し眠気が増してくる。時々がたんと目覚ましのようなフェイントをかけてくるのがむかつく。クッションが悪くて尻はいてぇし……でも歩いていることを思えばマシか。
 それから街に降りてぶらぶらと街の建物を見て、人を見て、なんでも街にはたくさんの人がいるらしい。そして店だ。店ってのがあっていろんなものが売られているらしい。
 ぶらぶらとそう言ったものを見て歩いて、気に入ったものがあると買い物をして手に入れる。


 外に出ることができたら。
 ベッドの上に転がって、それを考えたりガイと計画したり、それがルークにとって一番の楽しみで有意義な時間の使い方だった。
 「たとえばぁ〜街に行くだろ?そうしたら何をするんだ?」
 ルークはガイにもらった街の地図を開き覗き込みながらガイに尋ねた。
「そうだなぁ……あそこなんか面白いと思うぞ」
 ガイは地図を覗きこみ指をさす。
「ここにはちょっとすごい音機関があってな。それがこう起動する様は面白いし美しいんだ。あー早くルークにも見せてやりたいなぁ」
「なんだよ。ガイは見たことあるのかよ?」
 ルークはほんの少しだけだが、楽しさが半減したような気がした。そんなルークの気持ちに気付いていないのかガイは楽しそうにルートを指で示しながら話を進めていく。結局のところ音機関の話なのだ。
「音機関はもういい。他に何をするんだよ」
「買い物なんかはどうだ?市場にはいろんな街の品が並んでいるんだ。見ているだけでも充分に楽しめるが、欲しいと思うものがあれば買って手に入れることができる。まずはその品を褒めてやるといいぞ。店主が気を良くしてまけてくれる時があるからな。俺もそれで部品をいくつかもらったことがある。ほら前にルークに見せてやっただろ?古い部品でさ。いらない人にはどうでもいいものなんだけど、俺にとってはかなり貴重な部品だったんだ」
「だから音機関の話はどうでもいい……ガイぃ……」
「ああ、買い物だったな。欲しい品を決めたらこれをくれって言ってだな。値段を聞く。値段が物の価値に見合ったものだったらお金を払って手にいれるんだ」
「お金ってなんだよ……」
「ルークは場合は俺が支払うか、そうだな『後で屋敷に取りに来てくれ』と言えばいい。ルークの姿を見てどこの家の者かわからない奴はいないさ」
「そうなのか?」
「その綺麗な赤い髪に翠の瞳はファブレ家しかないからな。ほら練習してみるか?」
「おう!」
 ルークはテーブルにあったオレンジを手に取った。
「これ、美味しそうだなこれをくれよ」
「ありがとうございます。100ガルドになります」
「そっか後で家に取りに来てくれよ」
 ルークがそう言うとガイは満足そうに頷いた。
「いいぞルーク!」
 手の中のオレンジの芳香がルークの鼻を擽った。
「よし!これならいつ外に出ても大丈夫だな」
 いつも見慣れたオレンジがそれだけでとても美味しそうに見えてくる。
「ガーイー剥いて〜」
 ルークはオレンジをガイに差し出した。ガイは笑いながらオレンジを受け取った。





 ああ、そうだ街に出たら買い物をしよう。いつもよりきっと美味しいものに出会えるに違いない。あのときガイが切ってくれたオレンジはいつもよりも甘酸っぱくておいしかった。

 ルークは密かに期待に胸を膨らませた。






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