+++拍手LOG


+++親善大使様の冒険 6




 街にたどり着いて、宿に荷物を置くとそれぞれに決められた仕事に取り掛かった。ルークはガイと一緒に買い出しに出かけることになっていた。本当ならさっさと湯あみでもして、砂や埃を落としてしまいたいところだが、仕方ない。店が開いている間にいろいろと見てみるのも楽しいものだというガイの薦めもあることだし、ルークもその話にのってやることにする。
 珍しい品物を店先で冷やかしながらも、必要な物は揃えることができた。そろそろ足も疲れてきたことだし、宿に戻らないのかとガイに尋ねようとしたところ、ガイが屋台のほうへとルークの手を引いていく。
「どうしたガイ?変ったものでもあるのか?」
「いや、そろそろ疲れただろ?少し休んで行こう」
 喫茶店かと思ってあたりを見回すが、店の入り口は見当たらず、テラス席がある様子もない。ルークは不思議に思ってガイの名前を呼んだ。
 ガイは振りかえりながら、何味にするんだ?とルークに尋ねる。
「何が?」
「アイスクリームの味は何がいい?バニラ?いちご?後はチョコもあるな……それ以外はレ……ま、それはおいて」
 ガイはパラソルの下に置かれたワゴンに貼られた文字を読みあげていく。ちなみにガイが読まなかったのはレモンだった。暑いからレモン味のさっぱりとしたアイスには非常に心が引かれるものがあるな。とルークがレモンの文字をじっと見ているとガイが頬を少し引き攣らせている。別にガイも同じものにしろと言うつもりもないのだから、そんな警戒することもないだろう。
 少し意地悪が頭をよぎったが、ルークは思い直してイチゴを選んだ。
「イチゴにする」
 ガイもバニラを選び注文をしてお金を払ってくれた。
 屋台に立つおばさんが三角錘のカップの上にアイスを大盛りに盛り上げるとルークへと赤い方を差し出した。ルークは戸惑いながらも紙に巻かれたそれを受け取った。ガイも同じように白いそれを受け取った。大きな荷物を抱えたままガイは周辺を見渡してベンチを見つけるとルークをそちらへと誘った。
 テラス席がないのでルークも後をついてベンチへと座った。テーブルがないのでルークは困惑したまま手に持ったアイスクリームが溶けていくのを眺めていた。カトラリーはいつ来るのだろうか?
「どうしたルーク食べないのか?」
 荷物をベンチの端に置いたガイがようやくルークの隣に座って尋ねた。食べられるものなら早く食べたい。でないと暑さでとろけて今にも手を汚してしまいそうになっているではないか。不満が顔に出てるのだろうガイが不思議そうな顔をしている。
「どうした?イチゴは嫌になったのか?」
「そうじゃなくて……」
 ルークはどう言っていいのか分からずに思わず蕩けて落ち始めたアイスとガイを見比べた。ガイの手にしたアイスも溶け始めているではないか。早く給仕を呼んでくれよ。
「では召し上がれ」
「だからどうやって食べるんだよ?皿とカトラリーは?」
 ガイが驚いた顔をした後に、笑った。
「そのまま口にしていいんだよルーク。こういうアイスは初めてだったか?」
「そのまま?そのままってどうやって?」
「やって見せるから同じようにすればいいさ」
 そういってガイはアイスを顔を寄せてそのまま蕩け始めたアイスに口をつけた。蕩けたところを舌を伸ばして猫のようにぺろりと舐めてみせる。ルークも同じように顔を寄せてアイスを口にした。ガイのように上手くできずに鼻の頭に付いてしまった。
「どうだ?」
「おいしい……こうやって食べるのもいいな」
「だろ」
 ガイがとてもうれしそうに笑ったのでルークもうれしくなって笑った。
「早く食べないと溶けてしまぞ」
「ああ」
 ルークはアイスが垂れてしまわないように一心不乱にアイスを食べることに集中した。隣からさくりと音がする。ガイの様子を伺うと手持ちの部分を口にしているではないか!
「ガイ……何してるんだ?」
「何が?」
「容器を食べてるぞ」
「これは食べられる容器なんだ」
 それはすごい!!思わずガイの手元のものとルークの手の中にあるものを何度も見直した。
「すげー」
 ガイも満足そうに頷いている。思わず同じ言葉を繰り返した。
「すげー!!」
 なんて画期的なものなんだろう。容器が食べられるなんて、アニスに教えてやったらきっと喜ぶに違いない。さっそくアニスに教えてやろう。もしかすればジェイドも知らないかもしれない。

 ルークは居ても立ってもいられずに、ベンチから立ち上がった。
「ルーク?」
「すぐにアニスとジェイドに教えてやらなきゃ。そうそうナタリアにも!こんなすごいものがあるって知らないと損だぜ!!」


「たぶんみんな知ってると思うぞ」
 ガイがルークの燕尾の裾を引いて呟いた。












+++END+++




 そういえば昔ガンダムでコーンを食べるか食べないか論争があったらしいね。という懐古より(笑)セレブは食べないというより食べることを知らないという話でした。




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