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+++親善大使様の冒険 3 +++




 「休憩しましょう」の声に銘々が日陰に入り思い思いに休みを取る。ルークも木陰で岩の上に腰をかけた。もちろんその場所はガイがルークと呼び用意してくれた場所だ。
 肌を刺すような強い日差しを避けて一息つくと咽喉の渇きが気になったのでルークはガイを探した。
「がぁい〜?咽喉が乾いたー!」
 アニスがその声に不思議そうにルークを見た。アニスはちょうど水が流れおちる脇に立っておりとても涼しげだった。なんだよ。ガイが見つけたくれたこの場所だって日陰で涼しいし、岩だってちょうど座りやすい大きさだし……そんなことを思いながらもアニスを見ているとその両手は水を受けてとても涼しそうだった。
 あとでちょっと手を浸そう。涼しそうだし……まさか独り占めってことはないだろう。すぐ近くにティアだって順番を待って立っている。
「ルーク」
 探していたガイもその湧水のところにいたらしい。ひょっこりと木陰から顔を出し手でルークを招いている。
「あ?ガイ咽喉が渇いたんだよー」
「だからさ、この水を飲んでみろおいしいぞ」
「は?」
 ガイからそんなことを言われるとは思ってもいなかったのでルークは戸惑った。だって地面の間から出てる水だぞ。無理って首を横に振った。だいたいコップに入った水しか飲んじゃ駄目だって口うるさく言ったのはガイじゃないか。
「何言ってんだよ〜くだらない冗談はいいから早く飲み物くれよぉ」
 またからかわれたとルークは感じて不満だったけれど、軽く受け流すことを覚えたのだ。ガイにまでっておもったけど我慢した。
 とたんにアニスが不満そうに唇を尖らせて「おぼっちゃまには飲ませてあげませんよ〜」と顔をそむけた。
 ふざけんなっ……って喉まで声が出かけたけどぐっとこらえる。ガイが困ったなっていう風に苦笑を浮かべて肩を潜めた。そんな風にされることじたいが我慢できない。怒鳴ってやろうと思って大きく息を吸って、目に入るものに思わず腰を上げた。アニスが手にすくったその水を口に運んでいたのだ。
「えー???」
 飲んでいるように見える。地面から出た水をそのまま飲んでいる。驚愕の事実にルークはガイとアニスとを見比べたがガイはそれを注意することも驚いている様子もない。横に立つティアに救いを求めて見るがティアも別に驚いている様子もない。というかティアの手にあるのは水筒でそこに水を入れようとしているように見えた。
「え?マジで?」
「ガイは本当にルークに甘いんだから!ルークなんか古くなった水筒の水でいいのにっ!」
 アニスはガイがコップに流れ落ちる水を受けているのをみて笑う。ガイは水滴がたくさんついたコップを持ってルークの元まで駆け寄った。
「ほら、飲んでみろ。ルーク」
「本当に飲んで大丈夫なのか?だって……地面から出てたんだぞ」
「大丈夫だって。こういう水が一番綺麗でおいしいんだぞ。飲んでみろよ。俺もさっき飲んだが冷たくてうまかったぞ」
 ガイはコップをぐいと差し出した。水滴がついたコップの中透明な水がおいしそうに揺れていた。
「うん……」
 ルークはコップを受け取りおそるおそると口に運んだ。すんと臭いをかいでみるが変な香りもしないし、そんなおびえているように見えるルークをガイは呆れた様子で見つめている。ルークは腹を決めて飲み込んだ。冷たくてさらりと喉を通りすぎる。喉が渇いていたからもあるがおいしい。
「おいしい……」
「だろ?おかわりは?」
 ガイの得意そうな顔にルークは空になったコップを差し出した。
「ルーク。何お上品にコップなんかで飲んでんの?こうやって手で飲むのが一番おいしいんだよ!」
 アニスが知らないの?って両手で気持ちよさそうに水を受けそれを口に運ぶ。ごくごくと飲む姿がとてもおいしそうだ。
「そんなの……」
 やったらガイに叱られる。ガイは怒る気配も見せずににこにこと同じように手袋を外した手で水を受けて飲んでいた。
「なんだよー!ガイ!!俺がそういうことしたら怒るのにっ!!」
 ルークは不満のあまりに仁王立ちしてしまった。
「な?俺がおこった?」
 ガイが不思議そうに首を傾げた。
「そうだよ、俺がペールの手伝いをした時」
「そんなことあったか?」
「あった!!お前すげー怒るし。だいたい飲む以前に水に手をつけただけでお前すごく怒っただろ!なんだよそれ……飲み物はコップに入ったものしか飲んじゃいけませんって口うるさく言ったくせに―ふざけんなっ!」
「ルークそれいつの話?」
 アニスがけらけらと笑いながら言う。数年前いや、ついこの間のことかも?の話なんだが。恥ずかしくなったのでそれ以上は言わないでおいた。ガイが優しい笑みで手招きをしてくれる。
「わるかったよ。ルーク。これも経験だと思ってやってみろよ」
 仕方ないなとルークが歩みよると、その手でグローブを外してくれた。両手で受けた水は冷たくて気持ちいい。受け方が悪いのか跳ねて隣に立つガイに掛った。うおって変な声をガイが出してておかしい。
 口に運んで飲んでみた。同じ水なのになんだかとても不思議な気持ちになった。耳に心地いい音とか水面に映る木漏れ日とかそんなのが一緒に中にしみてくるような気持ちになった。指の間を通って行く水の感触もつかみどころがないけど楽しい気持ちになった。



 想像以上に濡れて結局、みんなに後で呆れられた。



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