+++タブレット+++  アシュルクだったりガイルクだったり鬱話 死にネタかもしれない





+++++6+++




 屋敷の出窓には鍵をかけない。ガイがいつでも入ってこられるように。もちろん窓の前には物を置いたりもしない。かたりと風が窓を鳴らした、ルークは出窓をじっと見つめた。
 いつでもガイが入ってこられるように
 いつまで待っても人影が窓に映る事はなかった。
「ガイ?」
 名前を読んでみても応えはなく、空しく呼びかけは霧散した。しばらく待っても誰も来ない。ルークは窓を開いてあたりを見回した。人影などはない。窓の下に潜む者もない。
 羽ばたき逃げる鳥ですら、いなかった。
「もう、迎えに来てくれねぇよな」
 諦めきれなくてルークは何度目になるかわからない言葉を口にした。何度唱えて己に言い聞かせてもやはり物音がすればガイが来たのかと胸を高鳴らせて人影を待っていた。
 ガイはマルクトで伯爵になったんだから、バチカルにはもういない。きっと忙しく働いているのだろう。ガイはなんでもできるからきっとすごく頼りにされてることだろう。もしかしたら休暇なんてもらえないくらいに頼りにされてるのかも……
 ジェイドとピオニー陛下達と楽しく笑って過ごしてる。ルークは夢想して唇をかみしめた。ガイは笑って幸せに暮らしました。めでたしめでたし。と物語風にENDマークをつける。ガイの隣にはきっと綺麗な奥さんがいてそのうち子供なんかもできて、あのデレデレでだらしない顔で子供を抱き上げたりするのだろう。絵に描いたような幸福な情景。
 其の絵の中にはルークはいない。
「ガイ……俺も……」
 木陰から羨ましげに眺めるルークが描きこまれた途端にその絵は不安と不幸を感じさせるモノになった。幸福な絵にルークは不要なものだった。
 なぜか目の奥が熱くなった。

「迎えになんか来ない」
 読みかけの本が手元から滑り落ちて、音をたてた。ルークは我に返って落ちた本を拾いあげた。
「ガイが読めって言ってた本をちゃんと読んでるんだ。もうすぐ読み終わる。だからはやく迎えに来て……」
 ルークはそう言ってしまってから、首を横に振った。
「来るわけない」
「来ない……馬鹿だな俺……」
 もしガイと再会することがあったら、立派になったなって言ってもらえるようにもっと勉強しなくては。ルークは本の頁を開いた。
 もう幻滅させたりしないようにしなくてはいけないのだから。ガイの笑顔を想像してルークはそれだけで照れくさくなった。笑みが浮かぶのを抑えられない。
「世界中の人を幸せにする……」
 ガイが教えてくれた罪の償い方。方法はまったくわからないけど……ルークに会わなくてガイが幸せならそれでいいかなと思った。
 本当は迎えに来てほしいけれど……




++++7+++




 アッシュは、ルークにガイと一緒に待機しておけと言う予定だった。しかしガイも伯爵として会議に参加するのだと言う。
「ルークも当事者なのですから参加させてはいかがですか?」
 ジェイドが当然面倒はあなたが見るのですよ。と笑みを浮かべてガイを引き連れて立ち去った。未練たらしく振り返るガイを見送り、広い廊下にアッシュとルークだけが取り残された。不安そうにルークはその小さな手でアッシュの手を掴んだ。
「まぁ!アッシュ!!その子は誰ですの?新しいレプリカでして?」
 ルークを連れて歩いているとナタリアに呼び止められた。
「いや、縮んでしまったがルークだ」
 新しいなどというナタリアの言い回しは一体どういう冗談だ。笑えないと思いつつアッシュはナタリアの迫力に気おされてしまう。
「ルークをお探しですの?公爵とご一緒でしてよ。控室はこちらですわ」
「いや、こいつがルークだ」
「まぁアッシュが御冗談を言うなんて、まさかあなたのお子ではありませんわよね?」
 ナタリアは楽しそうに笑いつつも最後の疑問文は畳みかけるようにアッシュへと投げかけた。冗談を言った覚えはない。むしろ笑えない冗句を言ったのはナタリアのほうではないか。さすがにアッシュは眉を潜めた。
「どうやればこのような大きな子供がいるようになるんだ?」
「あら……ではやはり新しいレプリカですの?」
 どこで出あわれましたの?とナタリアは心配そうに問い。そして何を思ったのかナタリアは愛らしく眉を潜めた。
「まさかヴァン遥将が他にも……?なんてことでしょう。早く父上に知らせなくては。公爵にも……なんてことでしょう!」
「違うナタリア。こいつがルークなんだ」
 ナタリアはアッシュの腕を引いてヒールとは思えない早さで歩き始めた。アッシュの手を握っていたルークも同じように引きずられていく。ルークが転び引きずられそうになるのをアッシュは引き上げてやることでなんとか転倒を免れた。
「ナタリア」
 ようやく追いついて名前を呼ぶ頃には扉を開けてナタリアが部屋へと入っていっていた。扉越しにナタリアと侍女の会話が漏れ聞こえる。
「ルークは?」
「今、具合が悪いと横になっておられますが……ナタリア殿下どうかされましたか?」
「アッシュが参りましたのよ。それも新たなレプリカを連れて!」

「ナタリア……」
 アッシュの遠慮気味な呼びかけは全く届いていないらしい。アッシュはナタリアを追い部屋へと入った。ナタリアは部屋の奥へと入るとベッドへと歩み寄る。引かれていたカーテンを力任せに開いた。
「ルーク!寝ている場合ではありませんわよ!!」
「会いたくない……」
 くぐもった声が小さく返る。
「まぁ。何をおっしゃってますの。アッシュが来てくれましたのよ。私、おいしいクッキーを持ってきてますの。一緒にお茶にしましょう」
 ベッドの上は掛布を頭までかぶっているらしく少しだけ見慣れた朱の髪が覗いていた。
「レプリカなのか……?」
 アッシュは手を繋いでいたルークを見下ろした。ルークはアッシュの手を解いてナタリアに駆け寄っていた。
「ナタリア!クッキー!!」
 早くクッキーをくれと急かしている。
「まぁ……まるで小さい頃のルークのようですわね。ええ、すぐにお茶の用意をさせますわ」
 ナタリアはそういいながらベッドの掛布を捲り上げた。
「ほら、ルークも早くなさって」
 ベッドの上で身を守るように丸くなっているルークが現れた。よく見知った姿だった。ただ髪の間から見えた顔色が酷く悪いように思えた。
「レプリカ……なのか……?」
 ベッドの上でルークの体が怯えたように小さく震えた。一度たりともこちらを見ようとしない。ナタリアにまとわりつくルークは楽しそうにクッキーをせがんでいた。
「どういうことだ……?」
 アッシュの呟きに気づかないのかナタリアはルークの手を引くとベッドの脇へと連れて行く。
「あなたと同じアッシュのレプリカのルークでしてよ。仲良くしてあげてくださいましね。ほらルークもごあいさつなさって。アッシュのレプリカなんですって」
「お名前はなんて言いますの?」
 ナタリアは笑顔で尋ねた。当然元気よく小さなルークは答えた。
「ルーク!ルーク・フォン・ファブレ!」
「あら……同じお名前ですのね。アッシュったらレプリカはすべて同じ名前にしてしまうおつもりですの?」
 小さなルークはベッドへとよじ登り丸くなったルークを覗き込み顔を寄せた。
「ルーク」
 子供がいたわるようなやさしい声をかける。横になったまま瞼を閉じていたルークに吐息がかかるほど近づいたためか、ようやくルークは目を開けて少しだけ笑みを浮かべた。
「ルーク……」
 互いに同じ名前を呼び合いながらも、その声は共に優しい。同じ名前同じ存在それでもこういう関係もあったのだと突き付けられる。ルークはゆっくりと腕を上げて覗き込むルークの少し伸びた髪を撫でつけた。そしてアッシュへと視線をながし、とても痛そうに目を閉じた。
 小さなルークに励まされるようにして、うつむきがちなままルークは体を起こした。




+++8+++




 同じテーブルに着きナタリアの進めで茶会めいたものを過ごしたが、レプリカはうつむき目を伏せたままアッシュを見ることはなかった。変わりと言わんばかりに小さいルークは元気で人の皿のうえのクッキーにまで手を伸ばすほどだ。
「小さなルーク。クッキーをポケットにそのまま入れますと壊れてしまいますわよ」
 ナタリアは小さなルークが掴んだクッキーをそのままポケットに滑り込ませるのを見咎めて声をかけた。
「ガイにあげる分」
 小さなルークは楽しそうに言う。
「まぁ優しいですのね。紙に包んであげますわ」
「ガイ……」
 二人が和やかに会話する横でルークが酷く動揺しているのがわかった。会いたくないと言った口でガイの名前は縋るように呼ぶのかとアッシュはいらだちを感じた。
「ガイなら来ている。今は伯爵の仕事で忙しいがな」
 小さいルークのように涙を浮かべて落胆するがいい。それとも泣き喚くのだろうか。そんなことを思いながらアッシュはルークを覗き見た。
「そ、そうだよな……忙しいよな」
 落胆と諦観の表情。己に言い聞かせるように忙しいよなと繰り返した。メイドが用意した綺麗な包み紙にクッキーを包んでもらって小さなルークは上機嫌だ。
「ガイに持っていく」
 席を立って部屋を出て行こうとする。扉を開けようとしたところで先に扉が開いた。メイドがガイを伴って立っていた。
「ルーク!」
 ガイはなんの躊躇もなくしゃがみ込み小さなルークを抱きしめた。
「がいー!」
 ガタリと音を立てて立ち上がったルークが二人のその姿を見て、表情を強張らせた。そして唇をかみしめてまた静かに椅子に腰かけた。揺れる瞳がガイを追う。ガイがこちらを見た途端に顔を伏せた。
 小さなルークに手を引かれてテーブルへと近づいたガイが気づいて二人のルークを見比べた。
「え?ルーク?!」
「ガイ〜クッキー!」
 呼ばれたと思った小さなルークは握りしめていた紙包みを手にガイへと差し出した。
「どうしてルークが二人いるんだ?」
「先ほどからお二人とも驚くのはこちらのほうですわよ。どうしてルークのレプリカをまたおつくりになりましたの?ルークのお気持ちも考えてくださいな」
 ナタリアが先ほどからふさぎこんだ様子で一言も発していないルークを気遣うように、そっとその手をとった。
「ルークのレプリカ?どういうことだ?キムラスカはルークがいないことに気づいて作ったのか?」
「何をおっしゃってますの?ガイ……」
 混乱した様子のナタリアに何か言いたげに唇を震わせ噛みしめ何も言わないレプリカ。アッシュはたまりかねて立ち上がりレプリカの前に立った。
「お前はいったい何者だ?」
 レプリカは一拍おいて自分に尋ねられていると気付いたのだろう。あげた顔の目は見開かれて唇をわなわなとふるわせていた。
「俺……は……るー……」
 レプリカは言いかけて辺りを見回した。瞳が恐怖の色へと変わり逡巡しているのがわかった。
「ご……めんなさい……レプリカ……なんだ」
 たぶんルークだと言いかけたのだろう。
「説明になってねぇ」
 アッシュの言葉に怯えて体を小さくした。
「ご、ごめんなさいっ!俺レプリカだっって……わかってる人間じゃない……ごめんなさい……だからそんな眼でみないで……」
 レプリカは頭を抱えて吐き出すようにそう言った。




+++9+++




 アッシュが意味を掴みかねて隣に座るナタリアに尋ねた。
「どういうことだ?」
 ナタリアもよくわからないと首を傾げている。
「キムラスカはアレからまたレプリカを作ったのか?それで宝珠と一緒に逃げてきたのか?」
「ルークをいじめるなっ!!」
 小さなルークがアッシュとレプリカの間に入り腕を広げた。
「ルーク……お前」
「ルーク。アッシュは苛めているわけじゃない。事情を知りたくて教えてくれと言ってるだけだから大丈夫。ルークは優しい子だな」
 ガイが小さなルークに歩みよってその頭を撫でた。
「本当か?」
「ああ……」
 小さなルークはアッシュがそうだと表情を和らげて見せるとよかったと笑みを浮かべた。
 それを目の前でみたレプリカが絶望したような目でガイを見ていた。何も聞きたくないと言うように両耳をその手で塞いで唇を噛みしめている。縋るような目でガイを見上げている。
「ルーク……また頭痛ですの?お薬を用意させますわ」
 それを頭痛のためあだとナタリアは心配そうに席を立った。

 ガイは困惑した表情でレプリカを見ていた。どうしてもルークにしか見えない。だが小さなルークもルークでしかあり得ない。もし新しいレプリカにルークを重ねてしまっては彼に対して否定になりはしないかと一瞬考えた。こんなに似ているのに……
「ルーク……」
 呼びかけて小さなルークが身じろぎをした。はっとしてアッシュとガイは直視していられずに目を背けた。
 時間がとまっているように感じた。


 会議の始まりの鐘の音が救いのように感じた。

 こいつは誰なのか結局わからないままだった。




+++10++++




 ガイが還したルークを抱き上げていた。本物のルークを……地面がぐらぐらとして世界が崩れていくような気がした。ガイが迷わず駆け寄ったのは本物のルークの一部になるほうだった。
 だから迎えになんか来ないって言ったじゃないかと己の中で声がした。クリフォトの曇天のなかにいるようなそんな気がした。
「がぃ……」
 貼りつく喉を引き裂くようにして名前を呼んだ。か細い声でかき消されてしまったのか誰の注意を引くこともなく消えた。

「お前はいったい何者だ?」
 投げつけるように問われた問いにルークは何を言ってるんだと笑い飛ばしたくなった。ルーク・フォン・ファブレのレプリカじゃないか。
「俺……は……るー」
 お前のレプリカだと言いかけて傾いだ世界から声がした。お前は罪の塊じゃないか。オリジナルに還すものはすべて還し、もう罪しか残ってないのにまだルークだと名乗るつもりかと声がした。反論する余地はなかった。残ってるのはレプリカだという事実だけだった。
「ごめんなさい……レプリカ……なんだ」
 アッシュがイラついたように舌打ちをした。
「説明になってねぇ……」
 説明って何を説明すればいいんだ。ルークと言いかけたことをだろうか?まだ罪を償えてないことか?それとも何かまた失敗をしてしまったのだろうか?
 もしみんなにまた見捨てられたらどうしよう。存在を否定されるあの冷たい目でまた見られたらどうしていいのかわからない。またガイに幻滅させてしまったのだろうか……
 怖い!怖い!怖い!!
 体が震えるのが止められない。
「ご、ごめんなさいっ!俺レプリカだっって……わかってる人間じゃない……ごめんなさい……」
 小さなルークがかばうように立ちはだかった。
「ルークを苛めるな!」
 ごめんな。お前を守るって言ったのに、守られてる。
「ルーク。アッシュは苛めているわけじゃない。事情を知りたくて教えてくれと言ってるだけだから大丈夫。ルークは優しい子だな」
 ガイが小さなルークに歩みよってその頭を撫でた。
お前を怖いものから守ってやるって言ったのにまもれなかったから、ガイはお前を選ぶのかな?
 その手は俺のもんなのに……。ガイは俺をみてくれない。
 いい子じゃないからガイは俺を捨てたんだ。その言葉が頭の中をぐるぐると回って、体がぐらぐらとしているような気がした。ルークは両手で頭を抱えた。




++++11+++




 少しの検査をしただけで疲れた様子で椅子に座りこんでいるルークはジェイドのよく知るルークそのものだった。じっと見つめていると不満そうに唇を突き出しなんだよと横を向いた。
 検査結果もアッシュと完全同位体を示すものだった。完全同位体がこんなにごろごろと存在すること事態が異常だ。
「あなたも完全同位体……」
「そうだけど……もしかして違うのか?」
「いえ」
「だったらなんだよ。障気中和するのになんか問題でもあるのかよ」
「いえ、ありませんね。ただ少しお疲れのご様子ですけど……」
 ジェイドの言葉にルークは舌打ちをした。
「家から出るの久しぶりだったし、いろいろあったから疲れただけだ。一晩眠ればどってことない」
 どんな刷りこみをすれば、言葉づかいまでこんなにそっくりになるのだろうか?そう思いながらジェイドはずっと何かに引っかかりを感じていた。それが何かわからなくてもどかしい。
 このルークもレプリカだと言う。あの小さなルークがガイとの過去を共有するのなら、私たちの知っていたルークは彼だということになる。ならば目の前にいるルークにしか見えない彼は誰だ?新たなレプリカだというのならそうなのだろう。
「ああ……ややこしいですねぇ」
「なんだよ、ジェイド。人の顔をみてややこしいとか言うなよ」
「おや……?私の名前を知ってるのですか?」
「どれだけ俺のこと馬鹿にしてるんだよっ!ふざけんなっ」
 ルークは椅子から立ち上がった。そのまま窓の外を見たまま動きを止めた。ルークの視線の先にはガイと小さなルークが戯れていた。どうしてルークはそれをみて悔しそうに顔を歪めるのだろうか……
「ガイがどうかしましたか?」
「な、なんでもない」
 そのままルークが部屋を出ようとした時に、白光騎士団員が扉を開けた。
「ルーク様、お迎えにあがりました」
「え?」
「出発のお時間です」
「もう……?」
 ルークは不安そうに視線を泳がせた。まだ覚悟が決まっていないのだろうか。
「公爵夫人が倒れられたと連絡がございました。公爵様が一刻も早いほうがよいだろうとアルビオールの準備が整い次第に出発となりました」
「そ、そうなんだ。俺、ガイに少しだけ話があって……」
「そんなことをしている間に公爵夫人の病が進行してもよろしいのですか?」
 ルークは顔色を変えて首を横に振った。
「そんなつもりじゃなくて……」
 ルークはまるで連行されるように腕を掴まれ引かれた。
「少しお待ちください。医師からの問診が残っております」
 ジェイドは見かねて声をかけた。
「ルーク、椅子に座ってください。あなたたちは邪魔です出て待ってなさい」
 しぶしぶと言うように白光騎士団員はぞろぞろと出て行った。ジェイドは待ちかねたと言わんばかりに扉をぴしゃりとしめた。
「ガイを呼びましょうか?」
 ルークは先ほどガイが見えた窓の前に立ち、外をじっと見つめていた。ガイが笑っているのが見えた。
「そんな時間は無理だよ。最後に会っておきたかったけど、会わないほうがいいってことなのかも……それより伝言してもいいかな?ガイに俺から『これで世界中の人が幸せになるかな?』って俺、ガイと約束したんだ。世界中の人を幸せにするってさ。だからこんなので罪が消えるわけじゃないけど、俺、ガイに幻滅されたままなのヤなんだ。だから……」
「ルーク……ガイのことを知ってるのですか?」
「なんだよ……知ってるってガイは俺の親友……なんだから……たぶん……」
 不安そうに揺れる翠の瞳をそっとルークは伏せた。
「あなたはルークなんですか?」
「は?みんなして何分けわかんねぇ事言ってるんだよ……どうせ……アッシュに全部返したって言いながら、レプリカが名乗るなんて変だっていうんだろ。わかった……もう言わない」
 ルークは振り切るように勢いをつけて振り返った。
 そうだ、彼がルークだとしても新たに作られたレプリカだとしてもそれをすることを押しつけたことには変わらないのだ。
 今更、どうするつもりだというのかとジェイドは一瞬、制止するのを躊躇った。
「じゃあな。伝言頼んだからな!」
「ルーク!!」
 ジェイドが呼び止める前に扉が開かれ、ルークは騎士たちに囲まれて廊下を行く。その廊下がまるで処刑台に続く道に見えた。




++++12+++




 ルークへと続く階段が走っても走っても終わらない。
 空より高い場所へと上がるために作られた。過去の塔は信じられないほどに高い。

「あのレプリカがそう言ったのか?」
 ジェイドの伝言をもらって、思わずジェイドの腕を掴むなどという恐ろしい事をしてその伝言を確認した。すべての人を幸せにするとか……なんてことをルークが本気にしていたとは思わなかった。そしてそのことを知っているのはティアとルークとガイの3人しかいないはずだった。
 記憶を刷りこみされたとはいえそんな個人的なことまで、されるはずもない。
「あれは……ルークだったのか?」
 ジェイドからの返答はなかった。
「ルークはどこに?」
「もうレムの塔へ向けて出発されました」
「ばかな!」
「事実です。すぐに追いますか?」
「当たり前だ!!」
「追ってどうするのです?止めるんですか?」
「当たり前……だ」
 ガイが咄嗟に答えてから硬直した。
「だって……ルークなんだぞ」
 ジェイドは黙ってガイを見つめた。そんなことわかっていて了承したのですよ。とその眼が語っていた。
「行くなら早くしたほうがいいですよ」
 それでもジェイドはガイの背中を押した。




 屋上は明るく開けていた。空が綺麗だ……青い……
 青い……
「ルーク!!」
 中心で剣にすがるように膝をついていたルークがうなだれていた顔を上げた。
「ガイ!ガイ!」
 見慣れた嬉しそうな表情でルークはガイの名前を呼んだ。
「俺……がんばったんだ!」
 誉めてと言わんばかりに晴れやかな表情とは逆に安堵で脱力したのかルークは座りこんでしまった。
「ルーク!よかった……無事だったんだな」
 ガイは駆け寄ってその頭をかき混ぜた。くすぐったそうに首をすくめるのも嬉しそうな笑みもルークだった。どうして今までそうじゃないと思っていたのか不思議なくらいだった。
「ガイ、世界中の人、幸せになれたかな?」
「ああ!すごいぞルーク!よくやったな」
 ルークは照れくさそうに目を細めた。
「よかった……俺、ガイにまた幻滅させたと……」
 ぽろぽろと涙があふれてその頬を流れた。
「泣くなよ……ルーク」
 思わずもらい泣きしてしまいそうになって、ガイは慌ててルークの頬の涙を手でぬぐった。
「だって……俺、怖かったんだ。怖いんだ……」
 ガイはもう大丈夫だと言いたかったが、堪えた涙が喉に詰まって声にならなかった。だから思いを込めてその頭を撫でて頷いた。
「ガイが来てくれて嬉しい」
 ルークははにかんだように笑みを見せた。まだ頬は涙で濡れていた。
「さ、帰ろうルーク」
 ガイが座りこんだルークを立たせようと手を差し伸べた。ルークは抱っこを求めるように両手を広げて待っている。このポーズには覚えがあった。
「おいおい……まさか抱き上げろと?」
 ルークは不満そうに唇を一瞬だけとがらせると、ばつが悪そうに顔を背けた。
「力がはいらねぇんだよ……」
「仕方ないなぁ……このおぼっちゃまは」
 ガイは懐かしくなって思わず笑ってしまう。こんな大きくなったルークを抱き上げることができるだろうか。移動するとなると横抱きするしかないなとガイは屈みこんだ。
 ルークは躊躇することなく両腕をガイの首に巻きつけて体を預けてくる。抱き上げてあまりの軽さに違和感を覚える。
「ルーク……痩せたのか?」
「ガイ、ガイ……ガイ」
 ルークはガイの質問には答えずに離れたくないとでも言うように、腕に力を込めた。体が震えている。
「ルーク、寒いのか?」
「怖い……怖いんだ……」
 ルークは肩に頭を押しつけてくる。頭を撫でて安心させてやりたいがあいにく両手はルークを抱えあげるのに塞がっていた。
「もう終わったんだ。ルーク」
「独りは怖いんだ……」
 ガイの思っていた恐怖とは違った応えにガイは抱える腕に力を込めた。
「俺がいるだろ?ルーク」
「うん。うん。ガイが来てくれて本当に良かった……俺、ちゃんと出来たよな?」
「ああ、見てみろよ。この青い空を」
 ガイは澄み渡った青い空を見上げた。ルークも同じように見上げているのがわかった。
「本当だ……ガイの瞳と同じ青い空……だ。よかった。みんな幸せになれるよな……」
 ルークが身じろぎして腕の中が少し軽くなった気がした。
「ありがとう……ガイ」
「なんだよ。ルーク。改まって……」
 見下ろすと腕の中のルークがうっすらと光を放っていた。ほろほろと崩れるように光がその青い空へと昇っていく。
「ルーク?!!」
 空を見上げていたルークの瞳が動いて、ガイを見上げ嬉しそうにほほ笑んだ。
「ガイ……ありがと……」

 ルークの安堵した微笑みの残像を残してルークは消えた。
 先ほどまで抱えあげていたルークが腕の中から消えていた。

「ルーク!!」

 歩みよってきていたジェイドへ救いを求めるようにガイは見た。
「さっきまでここにいたんだ……さっきまで……」
 ガイは空になった腕の中を何度も確認してしまう。先ほどまで残っていたルークの体温が風に奪われて冷たくなっていく。
「ええ……見えてました」
「ジェイド……ルークはどこへ……どこへ迎えに行けばいいんだ?」
 ジェイドは黙って首を横に振り、空を見上げた。





+++END+++











   
 ここまで読んでくださりありがとうございました。
 せつないガイルク萌えーと思って書いたらよくある話になったよーな。唐突に始まって唐突に終わる。文章力ないから残念な感じ……orz





inserted by FC2 system