+++ぶうさぎ型貯金箱+++  ガイルク 屋敷時代



+++


 丸みを帯びた陶器の入れ物。細く開けられた投入口に入れるとちゃりんと心地いい音が響く。それが楽しくて仕方ないとでも言うようにルークはまだおぼつかない足取りで台に置かれた貯金箱までよろよろと歩み寄り、もらったばかりの硬貨を隙間から投入した。
 指先がまだ思うように動かないのか、それですらかなり根気のいる作業と化していた。それでもルークは飽きずに投入しては満足そうな笑みをガイへと向けた。
 知らずとガイも笑みを向けていることに気付いた。
 それにしても最後に貯金箱を持ち上げてじゃらじゃらと鳴らし溜まった量を確認するしぐさまで真似することはないだろう……とガイは恥ずかしさで頭を抱えたくなった。
 まだそんなに溜まっていないルークの貯金箱は軽い音を立てていたが、ルークは音が鳴るのがいいらしくてガイの名前を連呼してはうれしそうに笑っている。

 ルークがガイの腕を引いて部屋へと慌てて連れていく。
「大変!ガイ!たいへん!鳴かなくなった……」
 鳴く?とは何がだ?と他のものよりもずっとルークの言葉を理解できると自負があったが、それでもルークの言わんとしていることが理解できずガイは引かれるままにルークについていく。
 どうやら目的地はルークの部屋らしい。

 棚におかれた貯金箱を指さしてルークは鳴かなくなったと再度訴えた。
「どうした?ルーク?中を見たいのか?それとももう満杯になったのか?」
 ルークはふるふると首を横に振った。
「違う……鳴かない」
 ルークは貯金箱を両手に取ると振った。いつもの音が鳴らない。
「え?」
 中をルークが抜いたともガイは思えず首を傾げた。まさか盗まれるはずもない。
「ちょっと貸してみろルーク」
 貯金箱はそれなりの重さがあった。中が抜かれているわけではなさそうだ。
「しんだ?」
 ルークの瞳が水分を含んで潤みだしている。
「いやいや、死んでない。っていうか死なないから。大丈夫だぞ。ルーク」
 ガイは投入口から中を覗き込んだ。硬貨と共に何か違う物が混じっているのが見て取れたが、暗くてよく見えない。
 ガイはぶうさぎ型の貯金箱を裏返して、とりだし口を開けた。取り出し口のあるものでよかった。割って壊すしか方法がなければそれこそルークの機嫌がどうなるか。

 食事のときのマットを広げて貯金箱を開く。取り出し口がねっとりとしたもので糸を引いた。それとともに甘い香りが辺りに漂った。
「なんだ?これ……」
 首をかしげるガイに対して、ルークは甘い香りに頬が緩んでいる。
「おい……ルーク。何を入れたんだ?」
 ルークはガイの問いに首を傾げた。そうしている間にも口の端からみっともなく涎がたれ始めている。
「おーいー。ルーク涎が出てるぞ」
 ガイはルークの口の端をハンカチでぬぐってやる。ルークはそのしぐさで思い出したのか、ポケットに手を突っ込んだ。そしてポケットから飴を取り出した。
「飴を食べるのか?」
 ルークは頷き、それを貯金箱の口へと押し込もうとする。
「おいしい……」
「ああ……飴はおいしいな」
 ガイはルークの頭を撫でてやる。
「それはルークが食べるんだぞ」
 ガイはそう言ってルークの手から飴を受け取り、包み紙を解いてやった。小判型のつるりとした飴。飴玉を含んだルークの口の端からまた涎が垂れた。
 ガイはため息をついてハンカチでぬぐってやる。どう見ても貯金箱に飴を入れたようだ。と想像はつくのだが……
「飴……って飴は大きいから入らないだろう?」
 小判型とは言え飴の厚みは投入口よりはるかに大きい。

「ガイも」
 ルークは飴を一つガイに渡した。
「ああ……ありがとうな」
 ガイはにっこりと笑って飴を受け取った。
「まぁいい……とりあえずこれを取り出してしまわないと……一体どれだけ入れたんだ?」
 ガイは貯金箱から中を取り出すべく掻きだした。ねちゃねちゃと溶けた飴に絡んでガルド以外にもボタン、おもちゃの部品などあらゆるものが出てくる。予想通りに飴を入れたらしい溶けかけた残骸も出てくる。
 しかしどこから入れたのか?

 どろどろとした内容物は振ったくらいでは出てこず。ガイは途方に暮れた。すでにガイの両手は汚れてどこも触れられない事態に陥っていた。
 飴を嘗めご機嫌だったルークが徐に動き始めた。ガイがため息とともに置いた貯金箱の前に座るともごもごと口を動かした。薄くなった飴を取り出すと貯金箱の投入口へと突っ込んだ。
 何とも言い難い音が小さくなった。ルークは満足そうに笑みを浮かべて前に座るガイを見上げた。

「ルークさん……今、何を?」

「おいしい。元気になる」

 ルークは満面の笑みをガイへと向けた。脱力を覚えつつも可愛いなぁと思ってしまうあたりがもう駄目だ。
「そうだな。だがこいつは飴が嫌いだからな。もう入れちゃだめだ。だから鳴かなくなったんだぞ」
「う?!」
 ルークはショックを受けたらしく。ガイと貯金箱を見比べて固まった。
「次からは入れちゃだめだぞ」
「治る?」
「ああ……俺が直しておいてやる」
 ルークは安堵したように小さく首を縦に振った。




END


++++




+++
掲示板でコスモさんと話で萌をいただいた。貯金箱の話から。
ああ……やっぱり屋敷時代のガイルクはいいなぁ。足りない子なルークはかわゆいなぁ……
突発文なのでちょっとおかしいところがあっても目をつぶってください。
++++




inserted by FC2 system