■■最新更新分■■

+++「夢見る頃をすぎて」27-


 ガイルク。アシュルク。ヴァンルク?的なところもあります。ガイアシュ的な要素も含んでおります。大丈夫な方のみ進んでください。
こういうのなんて表現したらいいのかなぁと思ってたら便利な言葉がありました。
「ルーク総受け」です。たぶん……と言ってもルークがみんなを大好きでみんながルークを好きだというだけかも。

「ルークどん底」です。ルーク幸せしか認めないというような方は見るのをおやめになることをお勧めします。

逆行ものです。過去の一周目の話からはじまってます。
全部完結してから更新始める予定でしたが、そうすると5月すぎても更新できなさそうな感じになってきたのでとりあえず、様子を見ながら更新していきます。途中で修正が入ったり、つじつまあってなかったりすることはデフォルトです。頑張って合わせて行くつもりにはしております。

さっくりと書きたいところだけというタイプで短いお話を目指してます。

大事なことなので二回言っときます。「ルークどん底」です。ルーク幸せしか認めないというような方は見るのをおやめになることをお勧めします。






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第二十七話


 ルークとティアが会話したことによって、背中を向けていたみんなが気付いて、みんなが泣き笑いの表情でルークを出迎えてくれた。ジェイドが夜の渓谷は危険だからとアルビオールへと誘う。ルークは慌てて俺の身体はどこだ?と尋ねかけてそれだと分かりにくいことに気付いて言い変えた。
「レプリカはどこだ?」
 そのとき一瞬でルークを取り囲んでいたみんなの表情が強張った。少し後ろめたい気持ちに苛まれた。だが、ここで無駄に時間を過ごしているわけにはいかずルークは当初の予定通りに説明は省いた。
「アッシュですの?」
 ナタリアが疑問の声をあげた。ルークはそうだとも違うとも言いかねて口ごもった。首を横に振るしかできなかった。ルークを囲む面々が何か言いたそうにするが言葉にはならなかった。埒が明かないとルークは振り切った。
「その話はまた後でする。とにかく今は急いでレプリカを……」
「否でもなく是でもないですか……」
 ジェイドの呟く小さな声が聞こえた。ルークがジェイドを見るといつもの胡散臭い笑みではなくどこか耐えるような笑みを浮かべていた。
「ジェイド……」
「ともかく。レプリカ、ルークを探すと言ってもどこかあてでもあるのですか?」
「ああ、エルドランドではないかと思う……最後はあの地だったからな」
「そうですか……」
 気が付けば話をするのはジェイドとルークだけで皆は俯いてしまい黙りこんでいた。
「早くしないと!行かないのなら俺一人で行く」
 ルークは焦る気持ちのままジェイドに背を向け、エルドランドへと足を向けた。そのまま走りだしたいほどの衝動だった。ジェイドがルークの腕を引いてそれを止めた。
「アルビオールで向かった方が早いです。乗りなさい」
ルークはそう言って乗り込むジェイドについてアルビオールに飛び乗った。
「ルークがエルドランドにいるのか?!」
 ガイがはっとしたように顔をあげて叫んだ。
「たぶん……放置されてるんじゃないかと……魔物とかに襲われてなけりゃ……いいんだけ……ど……」
背を向けたままルークがそう心配そうに口にした途端にみんなは素早く席について、ノエルを急かした。
機内でガイがいろいろと話かけてくるが、ルークはそのことより、一向に返事のないアッシュのことが心配になってきていた。何度呼びかけてもアッシュからの返事はない。そしてルークの身体のことも心配だった。


 エルドランドに到着するとアルビオールからルークは飛び降りて、記憶にある最後の場所へと向かった。その場所は既に崩れているはずだが、それでもその近くにあるんじゃないかと思ったのだ。
 ルークはエルドランドを走り抜けながら、記憶にあるよりずっと崩壊が進んでおり、以前来た時よりも数倍も荒れ果てた感じがした。前に来た時よりも緑が多い。これらもレプリカなのだろうか?そんなことを思いながらルークは自身の体を探した。
 しかしどこを見てもルークの身体はなかった。アッシュと最後に分かれた部屋にルークは駆け込んだが、大きな崩落による穴があいているだけでそこには何もなかった。
「俺の身体……どこだよ……!!」
 ローレライを呼んでみてもコンタクトをとれることもなく。アッシュが返事することもなかった。
「どうなってるんだよっ……!!」
「本当にここにいるのか?」
 ルークの名前を呼びながらあちらこちらを探しまわってくれていたガイも不安そうにルークに尋ねた。
「だって……ここになけりゃどこにあるっていうんだ?」
「ルーク?」
 ジェイドがルークの腕を引いて顔を覗きこんだ。
「だって……俺の身体……」
「やはり、ルークなのですか?」
 ジェイドは小さな声で尋ねた。ルークはジェイドを見上げた。だが、そうだとは言えなかったがやはり否とも言えなかった。だって……白い天井に柱。この広間で……俺はここで兵に囲まれて音素乖離による不調のすきを突かれて、絶命した。後をレプリカに託して……俺は死んだはずだ。
「俺はここで死んだはず……?」
 刺された時の衝撃が蘇り思わず腹部に手をやった。服の上からでもわかる傷跡。やはり……ここで死んだ。
「どうなったんだ?」
 ルークはそこまで考えて自身の声に驚いた。今、何を思っていた?それはアッシュの……閉じ込められた部屋はルークも知っているだが、その後の記憶はアッシュとのチャネリングで知ったのだっただろうか?
 ルークは意識を保つために首を振った。
「今、俺は……?」
「アッシュ。落ち着いてください。あまり考えないほうがいいでしょう……あなたの中にはルークの記憶がありますね?」
「いや……いや……そんなはずは……」
 ルークは首を強く横に振った。
「俺の中にそんなものはない」
 ジェイドが痛ましそうに視線を下げた。そんな風に俺を見るなと叫びたかった。ここにいるのはアッシュのはずなのだ。アッシュはどうして答えてくれないのか?そもそも大爆発とはオリジナルがレプリカの身体を上書きするはずではなかったのか?この身体はアッシュの身体だ。それは確認したから間違いはない。だからルークはアッシュによって回線を通じてこの世界を垣間見ているにすぎない。
 ここにいるのはアッシュでなくてはいけないのだ。
「あいつはどこにいる?!!」
 どうにかして探しださなければならない。どこにいるんだ?
「とにかく。この地を兵に徹底的に捜索させます。こう見えてもこの地は広い。この人数では目が行き届きません。あなたも疲れているようですし、一度戻られた方がいいでしょう」
「戻る?どこへ……?」
 ルークはアッシュがいないことを何度も否定した。この身体はアッシュのものなのだから、きっとアッシュも時間がたてば目を覚ますに違いない。きっとそうだ……まさか……まさか……

 恐ろしい可能性に気付いてしまいそうでルークはその考えに蓋をした。
「俺は……いったい何が……?」
 ルークは思考がちりじりになって行くのを感じた。思い出そうとすればするほど断片的な記憶が沸きだして、それの意味することを理解する前にまた何かが沸きだしてくる。想いとか感情とかが溢れそうになってとうとう呼吸の仕方すらわからなくなってルークは悶えた。
「今、そのことを考えてはいけません。ゆっくりと呼吸を、そうです吐いて吸って……」
 静かでゆっくりとしたジェイドの声がルークに呼吸をすることを思い出させた。
「俺はいったい……どうなって?」
「そのことは落ち着いてから話ましょう。ともかく捜索は続けさせます。それでいいですね。それからこちらの話をしましょう。世界情勢とあなたの立場などです」
 ルークはゆっくりと顔をあげてジェイドを見上げた。
「立場?」
「ええ、エルドランドでローレライを解放してから二年がたっております。今日はバチカルにある墓前でルークの成人の儀が行われてます」
「成人の儀……ならあいつは生きてバチカルにいるのか?」
「いえ、墓前で、ルークもアッシュも死亡したと公表されております。英雄として石碑が建てられました。あの後お二人の痕跡を探してこのエルドランドの地を捜索しましたが何も得ることはできませんでした」
「俺は……ローレライを解放して……アッシュと一緒に深いところに沈んで……それで……気が付いたらここにいた」
「そうですか」
「いや、俺は兵に刺されて死んだ……後をレプリカに託して……」
 違うそれはアッシュの想いで、俺じゃない。だけどここにいるのはアッシュなのだから、それでいいのか?でもそれは……どういうことだ?また息が苦しくなってきた。
「アッシュ。考えるのは後にしましょう」
 ジェイドの考えるなと言う言葉が優しくルークを包みこむ。考えるな。ここにいるのはアッシュのはずなのだから……だから早くアッシュ起きてくれよ。



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第二十八話



 椅子に凭れかかりぐったりとしたルークにティアが毛布をかけてやる。
「大丈夫なのですか?」
 ナタリアが心配そうに尋ねた。
「まだ何とも言えませんが、ローレライは解放されるためにはレプリカの生存に関して最善の手を打ってくれるでしょう。それに期待するしかありません」
 一同返す言葉もなく頷いた。
「さて、一先ずはベルケンドへ運びこみますか?レプリカの状態を知っておく必要があります。いいですか?」
 ジェイドは周りを見回して疑問形で尋ねはするがそれは決定の周知でしかなかった。アッシュはああと頷き、疲れた身体を空いた席へと倒れこませた。
「大丈夫か?ルーク」
 ガイが心配そうに尋ねた。
「ガイ。俺はアッシュだ。間違えるな。レプリカがルークだ」
 訂正をするアッシュは知らずと声がきつく低いものとなってしまった。
「す、すまない。アッシュ気をつける」
ガイは意気消沈してしまいそっとルークの方を見た。何か後ろ髪を引かれるようなそんな様子だった。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、いくつか質問をしてもよろしいですか?」
 ジェイドがアッシュに尋ねた。
「なんだ?できれば手短に頼む」
「どうしてレプリカを殺しローレライを解放しなかったのですか?」
「では聞くが、そうした方がよかったのか?」
「そうですね。それならば今頃はすべての問題は解決していたように思いますが?」
 その時ノエルが行き先の確認と離陸するので着席をすることを求めた。ジェイドはレプリカの隣に座り、ガイはアッシュの隣を陣取った。後は空いた所へ銘々着席ししばし沈黙のまま離陸を待った。機体が安定するまではノエルの集中をきるようなマネは控える程度の理性は残っていた。『どうしてレプリカを殺しローレライを解放しなかったのか?』ジェイドの疑問の声が頭の中をぐるりと回った。
 疲れて痺れるような感覚の中でもその言葉だけがやけに明瞭でアッシュに目を背けることを良しとしなかった。ルークが死ぬことは預言の成就となる。それを阻止しただけだ。とか、超振動を使えるレプリカをみすみす殺す必要もないだろう。とか、償いだとすべてを返すとレプリカが言うのなら次は俺の番だとか……。今回の件の真意を聞いてからでも遅くはない。とか……言い訳めいた理由は数多くあげることができた。
「預言を成就させないため……いや、ただ失いたくなかっただけだ……」
 たぶんアッシュの気持ちを表現するならばそれだけだった。二人で生き残らなければならないとどこかでそう思った。つい先ほどまでは、障気の中和もローレライの解放も前世と言われるものでなしたのがレプリカだと言うのなら、次は俺の番だと思っていたはずなのだが、死んでもいいから次は俺がやり遂げてやろうと思っていたはずなのだ。
 しかしぼろぼろのレプリカを見て何かが違うと思った。俺たちは二人で生き残らなければならないと……
「先ほどの未来を知っているというお話ですが、とりあえず未来と仮定します。すでに変わってしまっているようですが、それをレプリカも知っていたと言うことでいいのですか?確か先ほどローレライがそのようなことを言っていましたね?」
 アルビオールが安定飛行に入ったとたんにジェイドが口を開いた。考え事に没頭することも許されないらしい。
「ああ、罪を償うためだと言っていたな。それと俺には返せぬものがあるとも……返せぬとはどういう意味だ?」
「大爆発を回避したいと言う意味じゃないのか?」
 ガイはレプリカを見つめていた視線をアッシュへと戻した。
「だが、あいつは返すとも言っていたのだぞ。以前にだが……」
「大爆発の事を知らなかったか?」
「その大爆発のことなのですが、実はまだ理論のみで人での現象の確認はされておりませんが、その記憶にあるという以前の時はどうだったのですか?アッシュ?」
「俺は、ヴァンとの決戦の前に死んだ。神託の盾の兵にやられてな。だからローレライの解放も全部あいつに任せた」
「そうだったな。ルークと俺たちでヴァンを倒して、ローレライを解放して……二年たってルークが還ってきた」
「途中退場してそれで終わりだ。だから大爆発は起こらなかったはずだ」
「何を言ってるんだルーク?二年後に還って来ただろ?」
「は?還ってきたのはレプリカだろ?だからお前はルークを探して待って疲れ果てて死んだって言ってたじゃないか」
 ガイの反論にアッシュは首を傾げながらも今まで聞いていた通りに返した。
「そうだったな。だけど還ってきたのはアッシュだったんだ。俺の待っていたルークじゃなかった」
 ガイも首を傾げた。そこでアッシュははたと気付いた。今までガイに訂正してこなかったツケがここで回ってきた。
「お前の待っていたルークはレプリカの方だろう。だが、俺は戻ってない。だからお前はルークに会っているはずだ」
「そんなはずはない。俺は……」
 ガイはレプリカの顔を何度も見て否定する。
「悪い……お前がルークを俺とレプリカと取り違えてるのはずいぶんと前に気付いていた。すまない。言いだせなかったんだ。お前が俺とレプリカとを間違えてるんじゃないかとな……」
「そ、そんなはずは……ない。だって何度もお前は俺に聞いていたどちらのルークを守りたいのかと。それで俺はお前だと……」
 ガイは認めたくないと言うように首を何度も降った。
「つまり、戻ってきたのはレプリカだったのですか?」
「いや、そんなはずはない。みんなアッシュと呼んであいつもそれに答えていた。時々ルークのように振る舞う時があって本当はもうルークは戻ってこないって気付いてた。だけどアッシュはルークの記憶はないと断言して、それで諦めがつかなくて探して待ってたんだ。ルークが帰ってくることを」
「大爆発は起こってたと言うことでしょう。二人の記憶が混在しどちらとも言えなくなったとしか……」
「俺はしらねぇ……そんなこと全く知らない。夢にも見ない。俺は神託の兵にめった刺しにされて死んだんだ。エルドランドでな」
「そうだ。その傷跡が身体に残ってて、それでアッシュだとみんな納得したんだ」
「身体はオリジナルだったのですか?」
「ああ、そもそもルークの身体は音素乖離が進んでいていつ消えてもおかしくない状態だった……だから……」
 ガイは言いながら不安そうにアッシュを見た。
「だからお前の待っていたのはレプリカだ。レプリカのルークなんだ」
「そうだったのか?」
 茫然とするガイをアッシュは見ていられなくて目を背けた。
「大爆発はレプリカに吸収されたオリジナルがレプリカを上書きしてしまう現象のはずなのですが、身体がオリジナルと言うことはアッシュが蘇ったと言うことになりますね」
「何を言ってる?大爆発はオリジナルが音素乖離を起こし、レプリカに吸収される現象だろう?だから俺にはその記憶はねぇって言ってる」
 いいながらも、以前読んだフォミクリーの本に乗っていた大爆発に関する記述を思い出していた。それを見た時は信じられなくて間違った記述だと思ったが、確かにそう書いてあった。『オリジナルがレプリカを上書きし完了する』と……
「いいえ。本来の大爆発とはオリジナルが音素乖離を起こしレプリカに吸収され、最後はレプリカを上書きする現象です。レプリカは記憶だけのそこに残すのですよ。だから身体がオリジナルだったと言うのは異例の事態です。オリジナルにレプリカが吸収されたということでしょうか。なるほど興味深い話です。本当にあなたには覚えがない?」
「その時点では俺は死んでいたはずだからな」
「オリジナルの身体ならば記憶はそのまま残っているでしょうね。なるほど」
「本当にレプリカに吸収されて終わりじゃねえのか……ああ、そういうことか。あの時はオリジナルが死んでレプリカも音素乖離していたということかそれでオリジナルにということか」
「じゃあ。どうしてアッシュだとルークは言ったんだ?レプリカの記憶はないと……帰ってくるかもしれないと俺に嘘を吐いたんだ?」
 ガイの疑問にジェイドは何かを察したのか眉を顰めて口を歪めた。
「少し眠る。酷く疲れた」
 アッシュの言葉を聞いてジェイドが少し眉を顰めたが、ジェイドは何も言わなかったのでアッシュはそのまま目を閉じた。
レプリカがそう言ったのなら、あいつ自身がそれを信じていたのだろう。いや、アッシュはレプリカを上書きすると初めて知った時のことを思い出し背筋が冷えた。そんなことが実際に起きたならば認めることなどできそうにない。あいつを喰って蘇ったなど認めることはできないだろう。
 例え俺でもレプリカが蘇る可能性に縋ってしまいそうだ。あいつならなおさらだろう……なんとなくそう思った。




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第二十九話


 
 目を開いたら、白い天井が見えた。やけに消毒液の匂い。ルークの推理が正しければここはベルケンドの病室。
「アッシュ?」
 呼びかけてみたが、やはり返事はない。身体を起こそうとして自身の身体が酷く弱っていることに気付いた。腹部に手をやり傷跡の感触がないので、ルークは覗き込んで筋肉の落ちて痩せた腹を見た。
「アッシュの傷が……?」
 声がかすれて出にくいことにも違和感が残る。
「……あれ?」
 何があったかとゆっくりと思い返して、それでようやく夢を見ていたことを理解した。今まで目を背けていた未来をはっきりと思い出した。いつまでたってもアッシュは目覚めずルークは結局アッシュではないと言いだせないまま、そのうち己が何であったのかがわからなくなってしまった。ガイに真実を告げられないまま、ガイが失意のうちに息を引き取ったことも知っていた。
こんな記憶以外は全部アッシュに返すのだ。大丈夫。ガイはルークと約束をしない。ごめんなさい。もうすぐ終わる。
だって後はローレライの解放だけだ。
「アッシュに全部返す……」
 枕元に立てかけられたローレライの鍵にルークは手を伸ばした。力が入らず鍵は鈍い音を立てて床に転がった。ルークは慌てて拾い上げようとしてベッドから降りるために足を降ろした。体力が落ちているらしく足がへたりルークは床に転がった。
「あとはローレライを解放するだけなのに……」
 ルークは床に座りこみ鍵へと手を伸ばした。これを掴み床に突き立ててぐるりと回すだけだ。それでローレライは解放されるはず。己の中でのローレライのざわめきを感じる。

 「どうしたっ!?」
 扉が開く音がしてガイとアッシュが駆け込んできた。床に転がりローレライの鍵に手を伸ばすルークを二人は見下ろした。
「気がついたか?レプリカ」
「アッシュ……」
 生きているアッシュとガイがそこに立っていて、ルークは思わず感激で目頭が熱くなった。
「生きてる……」
 視界が滲んでみっともない顔を晒したくないと思うのにアッシュとガイから目を離すことはできなくて、二人を見つめ続けた。先ほど見ていた夢が夢だったゆえに酷くその感情は強くてルークの心を揺さぶった。それと同時にまだ間に合う、急がなければとルークを急かした。
「生きてる……」
 二人の生きている姿を改めて見て胸が熱くなった。まだ今ならやり直せるのだ。ローレライの鍵に縋りついてルークは身体を起こした。
「ごめんな……ごめんなさい……俺、返すからアッシュに返すから」
「レプリカ……」
 床に座りローレライの剣を杖代わりにしているルークをアッシュとガイは覗き込む。心配そうに二人はルークを助け起こそうと腕を伸ばしてくれた。ルークはそれをとることはできずまっすぐな目を見ているのも辛くて思わず目を背けた。
「がい……俺本当の事ずっと言えなくてごめんな。もう待たなくていいよな」
「何を言ってるんだ?レプリカ?」
 ガイがルークを昔そうしてくれたように脇から腕をまわしてルークを抱き上げた。手にしていた剣をアッシュに取り上げられそうになってルークはすべての力を指にこめて抵抗した。
「はなせレプリカ……今、これは必要ない」
「駄目。これでローレライを解放したら終わるんだ……全部」
 アッシュとルークが言い会う間にもガイはルークをベッドへと座らせた。ルークは剣を引き寄せて抱え込む。
「駄目だ。これはまだいる」
 アッシュが苛立たしげに舌打ちをする。
「ローレライを解放するだと。こんな街中の研究施設でするつもりか?だいたい。お前がローレライと契約したままで解放できるのか?」
 ルークはアッシュの言葉に顔を上げた。
「え?」
「ローレライは契約を解除しないければできないようなことを言っていた」
「そうなのか……?じゃあ解除を……」
 そうは言ってみたものの、ルークはどうやってするのかわからずにアッシュを見上げた。
「今は大人しく寝ておけ。体調を戻してからだ。この屑が!」
 アッシュがルークの頭に拳をこつりと乗せようと腕を伸ばす。荒い言葉とは裏腹に、触れていいのかと迷うような優しい動きだった。ルークは触れることが怖くなって身じろぎをして後ろへと逃げた。アッシュが舌打ちをする。ルークはそれでも嫌だと首を横に振った。
「アッシュに触れると大爆発が……」
「そんなことくらいで進行などするか、げんにローレライはお前の身体を使って俺に抱きついてきたが、何も起こらなかった」
「え……?抱き……ついた……?アッシュに?」
 驚きのあまりに声がかすれて言葉にならない。アッシュは今、抱きついたと言ったのか?確認するように隣に立つガイを見るがガイも異論はなさそうだった。確かめるようにルークは自身の腕を見下ろしてみるが、その名残は見当たらず。記憶を探ってみても何もなかった。触れた感触を思い出すこともなかった。
「嘘……だ……俺はアッシュに触れたりなんかしない」
 触れた感覚もぬくもりもないのに触れたなどということは認めたくなかった。ルークが強い口調で断言すると、アッシュが不満を露わにし眉を顰めた。
「そんなに嫌なのかよ……ガイは抱き上げさせて……」
 唇を歪めて苦々しげにアッシュが呟いた。ルークは嫌ではなくて駄目なのだと言い募った。
「だって、ガイとは大爆発しない。だけどアッシュは駄目だ」
「何も起こらねぇ……ローレライが証明済みだと言ってもか?」
「だいたいどうしてローレライが……?」
「てめぇがとりこんだんだろうがっ!」
「ああ、そうだった……そうだ。障気中和は?どうなったんだ?」
「てめぇのおかげで消えた」
 アッシュはますます不満そうに言った。
「よかった……」
「それでるー……レプリカのルーク。体調はどうだ?」
 ほっと息を吐いたルークにガイが尋ねた。
「ああ。ちょっとダルいけど大丈夫だ」
 ガイに無意識に笑みを向けてしまい、アッシュの不機嫌さが増していくのがわかってルークは肩を顰め、顔を俯けた。ガイと話をするのも控えた方がよさそうだった。ガイは優しいからうっかりとルークに情けをかけてしまうかもしれない。アッシュはきっとそういう心配をしているのだろう。本当にいろいろと気配りのできるオリジナルでルークは誇らしかった。なるべく二人の姿を見ないように気をつけながらルークはアッシュに大丈夫だと安心させたかった。
「アッシュ。俺がするべきことはローレライの解放だと思うんだけど、他に何かしないといけないことがあるなら言ってくれ。いや、あのもちろん体調を万全にして契約を解除してからする。心配しなくてもローライの言うとおりにちゃんとするからな。アッシュは安心しててくれよ」
 とにかくアッシュの心が安らかになることを祈りつつ、ルークは懸命に言葉を紡いだ。




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第三十話


 ルークは頭上に暖かなものがおかれ弾むのを感じて、そっと視線を上げた。アッシュが困ったような笑みでルークの頭に手をのせ、ぽんと叩いていた。殴るとかそういう暴力的なものではなく。慰めるような優しいものだった。
「アッシュ?」
 あまりのことにルークは茫然としながらもアッシュから離れようとするが、アッシュは逃がすまいと言うように強く手を押しつけて来た。ぐっと抑え込まれてルークは身動きが取れずやはり怒りの鉄拳だったのかと、アッシュと同じように困惑の表情でルークは見上げた。
「アッシュ……あまり触れると大爆発が……」
 例え怒りの鉄拳だったとしても、大爆発が進行するのはあまりにもいただけないことだと思ってルークはアッシュに注進する。
「その心配はないと言っただろう。あれば俺もそんなことをしない」
 アッシュが不機嫌そうに馬鹿にしているのか?とルークに問いかける。
「そうじゃないけど……じゃあ何?俺が何かすることがあるのなら言ってくれよ。でないと俺は……わからないんだ……また間違ったことをしちまうのかな?」
 アッシュの不機嫌そうな表情を見ていると不安が増してくる。何かしなければいけないことを忘れているのではないか、それとも何かまた間抜けなことをしでかしているのではないか?ルークの少ない知恵ではどんなに振り絞ってもきっと足りないのだろう。誰かに相談といえども新たな関係を作るのはレプリカには許されないのではないかと今まで散々と悩みそれは辞めておこうと決めたことだった。いや、それは勇気がなかっただけなのかもしれない。答えをアッシュに求めるのは間違っているのだろうが、それでもアッシュぐらいしか尋ねる人がなかった。
「今は休めと言っている。お前に何かしてもらうことなどない。ローレライの契約を解除できれば解放できる。それもさほど急ぐ話じゃない」
 あんな勝手な奴は待たせておけばいいのだとアッシュは小さな声で呟いた。
「うん……」
 さほど急がないというのは体調を戻す程度の猶予はあるということだろうと、ルークは大人しく頷いてアッシュの掌から静かに離れた。どうやら何かし忘れているわけではなさそうで、それには安堵した。アッシュと離れた途端に暖かさが消えて、アッシュの手が暖かくてそこにあるということを実感した。それでルークは少し涙が滲みそうになっていたので、俯くのはちょうど良かった。アッシュは大丈夫だと言うが、それでもやはり触れあうと大爆発が進んでしまうのではないかとルークは心配になってしまった。少しでもアッシュとの距離をとっておきたくてルークは後ろへと下がった。
「逃げるなルーク」
 アッシュに窘められるように静かに言われて、逃げているわけじゃないと伝えたくてルークは首を横に大きく振った。でもやはりアッシュから逃げてることになるのだろうか?もっと触れあって大爆発を進めてアッシュに全部返すべきなのだろうか?でもルークだけの記憶はどうしても渡したくはなかった。これだけはアッシュから奪ったものじゃないルークだけのものなのだ。でも……オリジナルにしてみればそう言うことなのかもしれないと不安になった。
「逃げてるのかな?俺、まだ罪を償えてないのかな?逃げてるだけなのかな?俺、アッシュに返すよ。奪ったもの全部返して……罪を償いたい」
 アッシュに確かめたくてルークは顔をあげて、アッシュの瞳を覗きこんだ。アッシュはやはり痛みを堪えるような顔でルークを見下ろしていた。
「そうじゃねぇルーク」
「俺、今度はちゃんと罪を理解しているんだ。だからちゃんと償うから、逃げないでちゃんと……だからアッシュ」
 言いながらもルークはまだまだ返せてないことと償えていないことを理解して消沈した。だからそれ以上何も言えなくなってしまった。上手く立ち回って被害も減らして罪をずいぶんと償ったつもりでいたけれど、本当はそんなこと全くなかったのかとルークは現実に痛みを覚えた。
またアッシュにこんな表情をさせてしまっている。
「ごめん……アッシュ」
 それしか言えなくてルークは俯いた。手の中のローレライの剣に縋りつく。早くこれでローライを解放してアッシュをすべての柵から解放し、バチカルのあの陽だまりの中に還さなくてはならない。
 アッシュは舌打ちをして、それ以上は何も言わなかった。お互い居心地の悪い時間が少し流れたが、アッシュが何か食べるものをとってくると言って部屋を出た。何度もこの部屋から出てはいけないと念を押された。そう言われると何があるのかと確かめたくなったが、今のルークには部屋の中をうろつくことも難しいことだった。大人しくベッドに横になると知らないうちにまた眠っていたようだった。


 扉が開く気配に気付き目を開くと、アッシュにが食事のプレートを持って入ってきた。
「食事だ。と言ってもスープだけだがな。食べられそうか?」
 ルークはゆっくりと体を起して頷いた。今までと違い世界がぐるぐる回ることもなく、あの酷い頭痛の気配もない。とても気持ちのいい目覚めだった。空腹はさほど感じてはいないが、よい香りが部屋に漂うと食べたいという欲求が芽生え始めた。
「ありがとうアッシュ」
 テーブルへと向かおうとするルークをアッシュはそのままそこにいろと言い、座った足の上にプレートを置いた。
「大丈夫なのに、次からはちゃんと食堂に行くよ。アッシュにそんなことまでさせてたらガイに怒られる」
 アッシュは鼻を鳴らしてさっさと食べろと横を向いた。どうやら飲み物を用意してくれるつもりらしい。ルークは匙を手にスープを口に運んだ。ポタージュになったそれはとても滲み渡るようにルークの中に入って行った。
「おいしい……」
 思わずため息とともに声が漏れた。とても懐かしい味だった。この味は……ルークの視界が滲んでぼやけた。この口で味わうのは初めての味なのにとても懐かしい味だ。しかし知っている。ガイの作ってくれたスープの味だ。ルークはゆっくり味わうためにもう一口飲んだ。
 知らずと頬が緩む。
「やはり知っているのか……」
 アッシュの声にルークはぎくりと身体が震えてしまった。アッシュは良い香りのするハーブティが入ったカップをプレートの上に置いた。
「いや、すまない気にするな。ゆっくりと喰え」
 アッシュはごまかす様にそう言うと手にしていたカップから茶を啜った。
「あ、あのガイに……ガイにありがとうってとっても美味しい」
「そうか……そう伝えておく。冷めないうちに食べてしまえ」
 ルークは頷いてゆっくりとかみしめるようにしてスープを口に運んだ。ここのところ、食欲がなくまともに食べていなかったからか、そんなに食べたいと思っていなかったのに急にスープだけでは物足りなく感じ始めた。がっつりと食べたい。そんな欲求がむくむくと頭をもたげ始めた。しかしそれをアッシュに要求するのも憚られ、ルークは後で食堂に何か食べに行こうと心に決めた。今はガイのスープを味わうことに集中する。

 ノックもなく扉が開いた。
「ルーク。やはりスープだけと言うのは少なすぎるだろう?チキンサンドを作ったんだが、どうかな?」
 ガイはそう言いながら皿に盛ったチキンサンドを手に入ってきた。あまりのタイミングよさにルークは思わずガイはわかってるなぁと同意の声を上げそうになった。口に匙を付けたところでなければそう声を上げていたところだ。
「ガイ、充分すぎると言っただろう。急には無理だ。受け付けないだろう」
「そうか?しかし……」
アッシュなんてことを言うのだ。俺はチキンサンドが大好物だ。ぜひとも食べたいと顔をあげてガイを見ればガイの視線はアッシュの方を向いていて、ルークを一度も見ることがなかった。それでルークはガイがレプリカではなくてアッシュに話かけていたことに気付いた。アッシュもルークと呼ばれ慣れているのだろう。何の違和感もなく二人の会話はルークの前で進行していく。
 口に匙をつけていたことを感謝しつつ、出そうになった言葉を匙で突っ込んだ。ルークは急に恥ずかしくなった。どうしてガイが自身に話かけたなどと思ったのだろう。まだ数度しか会ったことのないレプリカにガイが直接話かけるはずなどなかったのだ。自分の勘違いが急に恥ずかしく感じてルークは耳が熱くなるのを自覚した。
ルークの視線に気付いたガイが他人に向けるあの澄ました笑みでルークに声をかけた。
「味はどうかな?口にあえば良いんだけど……」
 ルークは咥えたままだった匙をと取り出して、ごまかす様に笑った。トテモ美味シイデス。と口にしたくてガイを見たが、どうしても声がでなかった。アッシュはルークが赤面しているのに気付いたのだろう。
「レプ……ルーク……熱が出たのか?急に食事をしたのが身体に障ったのかもしれない……すまない」
 アッシュの手が急に額の上に伸びてルークの体温を測る。ルークは間抜けにも匙を手にしたままで、それを茫然と見上げた。
「ち、違うんだ……熱は出てない……」
 ルークは慌てて訂正する。そしてアッシュの後ろから心配そうにのぞきこんでいるガイと目が合って思わず、とてもおいしいとお礼を言った。
「だが、目も潤んでいるし熱があるんじゃないのか?」
「本当に違うんだ。美味しくて感激したんだ……本当だ」
 ルークの言葉を信用しないアッシュの心配が酷くなるに従って、ルークはますます恥ずかしくなって赤面した。二人の間で言いあいめいたことをしていると、チキンサンドも食したいなどと言いだせる状況ではなくなったのだが、腹がそれを主張し始めた。それを恥じていると二人は理解して納得してくれた。ガイがチキンサンドをルークのプレートの上に置いた。アッシュが何度もゆっくりと食べるようにと注意を促す。ルークは頷いてチキンサンドに齧り付いた。
 とても懐かしい味がしてルークは噛みしめた。もう一度食べられるなんて思ってなかったガイのキチンサンドの味だった。




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