■■最新更新分■■

+++「夢見る頃をすぎて」21-


 ガイルク。アシュルク。ヴァンルク?的なところもあります。ガイアシュ的な要素も含んでおります。大丈夫な方のみ進んでください。
こういうのなんて表現したらいいのかなぁと思ってたら便利な言葉がありました。
「ルーク総受け」です。たぶん……と言ってもルークがみんなを大好きでみんながルークを好きだというだけかも。

「ルークどん底」です。ルーク幸せしか認めないというような方は見るのをおやめになることをお勧めします。

逆行ものです。過去の一周目の話からはじまってます。
全部完結してから更新始める予定でしたが、そうすると5月すぎても更新できなさそうな感じになってきたのでとりあえず、様子を見ながら更新していきます。途中で修正が入ったり、つじつまあってなかったりすることはデフォルトです。頑張って合わせて行くつもりにはしております。

さっくりと書きたいところだけというタイプで短いお話を目指してます。

大事なことなので二回言っときます。「ルークどん底」です。ルーク幸せしか認めないというような方は見るのをおやめになることをお勧めします。





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第二十一話




 アブソーブゲートは行く先に倒された魔物の死体が転がっている以外は他のパッセージリングとそう変わりない様子だった。通路に残るまだ新しい戦闘の後があり、ルークたちがここにいることは間違いないようだった。
「急ぎましょう。さほど遅れはないようです」
 ジェイドの声にアッシュは顔を上げた。
「露払いが済んでいて私たちの方が先に着いてしまいそうですねぇ」
 まじめな顔で言われたジェイドの軽口にガイが噴き出してしまう。
「楽させてもらえるならそれにこしたことはない」
 アッシュがガイの背中を叩いてそれを諌める。

 魔物すべてが倒されていたわけでもなく。そこそこ現れる魔物を倒しながらパッセージリングまでたどり着いた。先に着いていたルークは肩で息をしながらも中心へと歩いている。周りを固めていた護衛がアッシュ達に気付き行く手を塞いだ。
「何用ですか?ルーク様」
「そっちのレプリカに話がある」
「しかし……」
 護衛は振返り、先をよろよろと行くルークを見た。
「俺にはないよ。俺は命じられた障気中和をするだけだ」
 ルークはゆっくりと振返りアッシュを見た。視線は伏し目がちで拒絶を顕わしていた。
「どうやって障気中和をする手はずなのかを確認して来いと私たちも命じられてきたのですよ。あなたはどのようにして増幅機器も第七音素を使わずに障気中和をするつもりなのですか?」
 ジェイドの言葉にルークは疲れたように肩を落とした。
「聞いてどうすんの?劣化したレプリカにはできないからって、邪魔をするつもりなのか?このまま障気が蔓延して人が苦しんで死んでいくのを見たいっていうのか?それとも本物のルークを予言通りに殺したいの?」
 護衛の方がルークの言葉に動揺を露わす。
 ルークは自身の言葉を不快だとでも言うように顔を歪めた。瞳だけが強い光を宿して、そんなことさせないと唇が動いた。




 「待て!レプリカ!!何をするつもりだ?!」
 アッシュはルークが何かを決意していることを感じ取った。なんとしてでもそれは阻止しなければいけない警鐘が心の中で鳴っている。
「大丈夫。アッシュを死なせたりしない。ちゃんと俺が障気を中和するから。預言に従って俺はアッシュを守るんだ。アッシュは安心して待ってて」
 安堵させようとしてか笑みを浮かべてそう言うとルークは大きく息を吐いた。次に浮かぶ表情は諦観で、体ごとアッシュへと向かう。アッシュはこちらへ来いと示したくて腕を広げ、ルークへと歩み寄る速度を緩めた。
「わかったから、だからこちらへこい。何をするつもりなのかを俺に言え……」
 だが、ルークはアッシュの元へとは歩み寄る気配はない。記憶にあるルークはアッシュが声をかけると嬉しそうに躊躇いを見せながらも歩み寄って来ていた。だが、今目の前にいるルークは喜びを噛みしめるように一度目を細めて、そして諦めをにじませ唇を引き結ぶだけだった。
「……どうしても言わないのならば」
 アッシュは咄嗟にチャネリングを繋いだ。なんとしても動きを止めてこの腕の中に繋ぎ止めたかった。

 頭痛を堪えるように顔を一瞬歪めてから、ルークはガイを見つめそして言った。
「もし俺が失敗したらって心配してるんだろ?残すとしたら、オリジナルを残すの?それとも劣化したレプリカ?」
 尋ねられたガイが息を飲んだのがわかった。代わりとでも言うようにジェイドが答える。
「残すなら劣化のないオリジナルでしょう」
 ルークは横からの返事に諦観の笑みを見せて、答えを促す様にガイをもう一度見た。
「ああ、俺はオリジナルとかレプリカとかじゃない。俺はこいつを守ると決めたんだ」
 ルークは俯いて顔をあげたときには満足そうに笑っていた。
「だよね。これが正解」
「ルーク!!」

 ルークは躊躇うこともなく後ろへとステップし、アッシュを見つめたまま暗い穴へと迷いなく飛び降りた。
 アッシュは思わず手を伸ばしその後を追うとするが、強い力でそれを抑え込む者があった。
「アッシュッ!!!!」
 強い力で抑え込まれたままアッシュはルークが真っ暗な地殻へと落ちて行くのを見送った。後を追おうとしたがその体はガイによって押しとどめられて後を追うことはできなかった。チャネリングでルークの身体の自由を奪おうとするが、やはり障気障害のためか操ることなどできはしなかった。ただ視界に入るほどの近さのためか声は聞こえた。
「大丈夫だよ。アッシュ……必ず障気を中和する。だから安心して待ってて……」
 風のごうごうという音に混じってその声が聞こえた。ルークは満足そうに笑っているのも見える。アッシュはこの屑レプリカがっ!怒鳴りつけることしかできなかった。
「放せガイ……もう……見えなくなった」
 ガイの震える腕がアッシュの身体にしがみ付いたまま離れない。
「ガイ……大丈夫だ。飛び降りたいしねぇよ……」
 安心させるようにガイの手にアッシュは自分のそれを重ねた。抱きしめて安心させてやりたいが、後ろからしがみ付かれているためにそれも叶わない。ガイが落ち着くにはしばらく時間が必要だろう。
 アッシュ達と同じように護衛達も暗い穴を覗きこむばかりで困惑している。
「逃げたのか?」
 護衛達が焦りながら顔を見合わせた。

 馬鹿か……とアッシュは思いながらも、アニス当りもそう思っているだろうなと周りを見回さなくても分かり気分が沈んだ。
「そうじゃない……あいつは障気を中和するために何かをするつもりだ。あいつは屑だが、言ったことは違えない」
 

 ずきりと頭が痛んだ。頭に直接叩きこむような声がする。

『聖なる焔の光よ! 鍵を送る! その鍵で私を解放して欲しい!……私を捕らえるものが……私を……』




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第二十二話 




 「待て!レプリカ!!何をするつもりだ?!」
  心配をにじませた声でアッシュが叫んで耐えきれないと言わんばかりにアッシュはルークへと駆け寄る。その身体を一度でいいから抱きしめて生きていることを確かめかったけれどそんなことは許されることではない。
「大丈夫。アッシュを死なせたりしない。俺が障気を中和するから。アッシュは安心して待ってて!!」
 ルークは想いを断ち切るために大きく息を吐いて、体ごとアッシュへと向かうとアッシュは安心したのか、ルークへと歩み寄る速度を緩めた。
「わかったから、だからこちらへこい。何をするつもりなのかを俺に言え……どうしても言わないのならば」
 ルークは頭痛の兆しにアッシュが何をするつもりなのかがわかった。便利連絡網でルークの思考を探るつもりだ。体を操るつもりかもしれない。ルークは咄嗟に記憶にあるヴァン師匠が落ちた場所へとルークはまっすぐに向かい。兵士たちが驚いたり止めたりする間もないあいだにルークはそこへと足を踏み出した。



重力に従ってまっすぐと落ちて行く感覚。風が耳元でびゅうびゅうと音を立てている。

 落ちて行く間に頭痛が酷くなり、アッシュの焦りと混乱が流れ込んできた。
「大丈夫だよ。アッシュ……必ず障気を中和する。だから安心して待ってて」
 ルークはアッシュへ向けて言葉を紡いだ。風が耳元でごうごうと唸りアッシュの声が聞こえにくい。脳内に直接聞こえるはずの声なのに、鼓膜を通じて聞こえる音がうるさくて聞こえないとは知らなかった。
 暗い場所につくとルークはゆっくりと譜歌を歌い始めた。さぁローレライ。俺の中においで、お前を俺に取り込ませて……
 自由になりたいと抵抗するローレライの欠片をルークは譜歌で縛りつけて、己の中に収めた。アッシュにローレライが助けを求めている。
『聖なる焔の光よ! 鍵を送る! その鍵で私を解放して欲しい!……私を捕らえるものが……私を……』
 ローレライの鍵はルークの中に今思えば、ここに生まれた初めからルークの中にあった。だから宝珠をアッシュへと向かってルークはローレライの言葉に従ってそれを手放した。ルークが障気中和で生き残れなければアッシュがローレライを解放してくれるだろう。
 人という器に納まりきれない第七音素がルークの中で暴れざわめき、器を壊して溢れだそうとするのをルークは譜歌で抑え込む。
契約しよう。ローレライ。この暗いところから上へ連れていってやるから少し力を貸して欲しい。
障気に変化した第七音素を清浄な第七音素に戻したいんだ。

気が付けばルークはパッセージリングに一人で座りこんでいた。周りを見回しても一緒に来た護衛もアッシュもガイもジェイドも誰もいなかった。見まわしてみてそこがアブソーブゲートではなくラジエイトゲートであることが分かった。
 ルークは手にしていたローレライの剣を支えにゆっくりと立ち上がった。
「お願い!ローレライ。力を貸してくれ!」
 ルークは記憶にある通りに超振動を発生させ剣で増幅して障気を中和していく。ローレライが第七音素を大量に消費されることに怯えたように抵抗をする。譜歌を歌うことでそれをルークは宥めて、自身を構成する第七音素も同じように削りとられて形を保っていられなくなるのがわかった。
 死んでもいい。だってこの記憶はルークだけのものだ。例えアッシュにだって返すことはできないのだ。すべてはアッシュに返す。けれどこの思い出だけは譲れなかった。大爆発が起きる前に消滅できるならその方がいい。
 ローレライの力を借りてオールドラントが清浄な第七音素に包まれていくのを感じる。ありがとうローレライ
 これで全部心残りはないかな?と思うと知らずと笑っていた。もう願ったりしない。夢見たりしない。罪を償えたかな?もうこれで償うことはできたかな……

 身体を支えていられなくてルークは倒れながら空を見上げたが、あのときのように青い空を見ることは叶わなかった。ラジエイトゲートの無機質な天井がルークの瞳に映った。それを最後に視界は黒く暗転した。


 倒れこんだ一瞬後にむくりとルークは起きだした。
「レムの塔か……面倒な」
 ルークはそう呟くとかき消えた。







 ガイが心配そうに前のめりに倒れこんだアッシュを支えた。
「大丈夫か!!ルーク!!」
 アッシュは思わずガイを睨みつけた。ガイもそれで気が付いたらしくアッシュと言いなおした。
「どうしましたか?まさか大爆発が?」
 ジェイドが心配そうに覗きこむ。その目には少しだけ研究者としての興味が浮かんでいる。アッシュは思わずため息を吐く。
「違う……ローレライが……解放してくれと、何かに捕えられたと……ローレライの鍵を使って地殻から解放してくれ……」
 アッシュは暴力的に叩きつけられたようなメッセージに苛立ちを隠せなかった。ローレライの鍵といいながらもアッシュの手の中に届けられたのは宝珠だけだった。剣はレプリカが受け取ったのか?
「アッシュ?」
「レムの塔へ行く。きっとレプリカもそこへ向かう」
 確か障気の浄化はレムの塔で行われたはずだ。レプリカはいないが……最後にそこの地名を伝えて来たということは手伝えと言うことだろう。
「少し休んだ方がいいのでは?」
 心配そうにナタリアがアッシュに寄り添った。
「いや、大丈夫だ。急ごう」
「でも、レプリカを待ってなくていいんですか?ここに戻ってくるってことはないのかな?」
 アニスが黒い穴を遠目に覗きながら尋ねた。同じように護衛していた兵たちも迷っているようだ。
「ならばお前たちはここに残って様子を見てて……くれ」
「アッシュ……」
「俺たちはレムの塔へ向かおう。あいつが暴走したり力尽きた時に間に合わなければ意味がない」
「ああ、そうだな。あれは二人で……だったな」
 ガイは頷き立ち上がろうとするアッシュを支えた。アッシュの健康状態が心配だからとジェイドとナタリアもそれに従う。アニスが迷いを見せてアッシュと護衛の兵士たちを見比べた。ティアがアニスと優しく声をかけた。
「ティアは?」
「私もローレライが関係しているらしいし、何か役に立つこともあるかも知れないから、アッシュと一緒に行くわ」
「じゃあ私も。最後まで見届けたいから」
「アルビオールを一機残していきますし、それでもしレプリカが戻ってくればレムの塔へお連れしてくださいな。何かあればレムの塔へ報告をお願いしますわ」
 ナタリアは当たり前のようにそう兵士たちに告げて背を向けた。



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第二十三話



 第七音素が大きなうねりとも脈動ともつかない何かの感覚にアッシュは小さな窓から外を見る。
 ギンジの操縦するアルビオールでレムの塔へと向かう途上で超振動の発動を感じ、障気が中和されていくのを目の前で確認した。ガイやジェイドも同じように窓から外を見ている様子から第七音素の素養がなくともわかるほどの変化だった。薄暗くどんよりとしていた空が青へと変わって行くのが目に見えた。
「あいつ……どういうつもりだ……?」
「一人で?」
 ガイが心配そうにアッシュを見た。
「ああ、どうやらそのようだな」
「どうやってレムの塔へ行ったんだ?」
 ガイが至極当然の質問をした。
「いや、場所は……超振動はラジエイトゲートで発生したようだ……」
 アッシュはそう言いながら、確認するようにジェイドを見た。
「パッセージリングでラジエイトゲートまで飛ばされたのでしょうか?地殻ではすべてのパッセージリングは繋がっておりますから」
「そうか……」
「迎えに行ってやらないといけないんじゃないのか?」
 ガイが思わずと言うように身を乗り出した。アッシュは思わずため息をついた。
「いや、その必要はなさそうだ。レムの塔へと飛んだようだ。超振動がレムの塔で収束した。あいつ何者なんだ?俺のレプリカじゃねぇ……のか?」
「超振動で移動したのですか?」
「ああ、疑似超振動で飛ぶのと同じ要領かもしれねぇな」
「そんなことができるのか?」
「さぁ?俺はできないが、あいつは今それをやってのけたようだと思う。行ってみて確かめるしかないがな」
 立て続けのジェイドとガイの質疑にアッシュは思わず投げやりになってしまう。感覚的なものでしかない。たぶんレプリカがレムの塔へ移動するために超振動を使いそれが終息したのを感じただけだ。実際には違うかもしれない。レプリカは先ほどの中和で消えてただ残り香のような第七音素がレムの塔で終息しただけかもしれない。あるいはローレライがすでに解放されたのかもしれなかった。
「また行けばわかる……ですか?」
「そうとしか言えないだろう?わからねぇんだ……俺には第七音素の塊が大きく動いたって感じただけだからな」
「何がおこってるんだ?これは予定通りのことなのか?」
「俺の知っているものとはかけ離れたものだ。だから俺にもわからねぇとしか言えない。ある意味預言からはとっくに外れている」
「そろそろ話してくれてもいいのではありませんか?あなた方の言う『知っている記憶』と言うのはなんなのですか?」
「私も知りたいですわ」
 遠巻きにしていた者も静かに頷いていた。アッシュはガイと顔を見合わせた。ガイは仕方ないと言うように大きく頷いた。
「俺は小さいころから同じ夢をずっと見ていた。同じと言うのは違うかもしれないが、俺の一生を細切れに夢やふとしたはずみに幻影を見る。それが未来で未来を知っていたことに気付いた。ガイも同じような夢を何度も見たらしい。その内容が俺の知っている夢の中での俺の人生と同じだったんだ」
「その夢の中でと言うのは……未来ですの?」
「ああ、過去から未来。俺が死ぬまで、綺麗に並んで繋がってるわけじゃねぇ。ところどころ抜けてはいるようだが、たぶん前世か……もしくは俺のこの人生が二回目なのかもしれない。レプリカとフォンスロットを開いたときにその俺の持っている記憶が過去生だと確信した。二度目をやりなおしてるんだとな。笑ってくれていい……」
「ガイは同じように前の人生の記憶があるのですか?」
「俺はアッシュほどはっきりと言えるほど見てないが、こう俺の根底的なところにそれはあって、たぶん俺は前のその人生でルークを守れなかったんだと思う。失うんだ。ルークが消えてしまって助けられなかった。だから次に会えたら必ず守って見せると誓った。俺はルークを守るために二度目の人生を送ってるんだと思う」
「一族の復讐も捨ててですか?」
 ジェイドが前から気になっていたとでも言うように尋ねた。ピオニー九世陛下に初めて謁見するときにガルディオス家の復興の手はずを整え、エルドラントを領地にするようにすべて準備を整えてくれていたのはジェイドだった。たぶん使える手駒にする下心があったにしろその時には隣にいるオリジナルのルークとのことは不問だった。ガイも不思議だったのだ。だが、ジェイドも気になっていたようだ。
「俺は違うよ。怨みを持っていたこともあっただろうが、初めてルークに会ったときにそれはどうでもよくなったんだ。こいつを守らなくっちゃと言う思いの方が強かった」
「それで一緒にダアトへ?」
「ああ、ルークが超振動の実験をキムラスカから強制されて弱って行くのを見てられなかったんだ。だからヴァンの計画に乗った。いずれにせよキムラスカにいれば預言で殺されるからな」
「そ、それで……ルークは助かりますの?預言からは……」
 ナタリアが不安そうに尋ねた。
「さぁ?どうだろうな?」
 アッシュは薄く笑みを浮かべ静かに言った。
「俺の知っている未来とずいぶんと違ってしまっているから何とも言えないな。預言からは大きく外れていると思う。だから終末預言からは逃れられてると思う」
「終末預言?」
 アニスの驚いた声にアッシュははっとして顔を上げた。
「アッシュその終末預言とはなんですか?」
 ジェイドが逃がしませんよと言うように冷たい目で笑った。アッシュは仕方ないと言うように用意していたように言葉を続けた。
「話せば長くなるが、キムラスカはキムラスカの繁栄を読まれた預言を信じて順守しているが、第七譜石に刻まれた預言は最後まである。つまり終末預言だ。キムラスカの繁栄の後に世界は病によって滅びる」
「は?」 
 あんぐりと口を開けたままのアニスだけでなく。聞いている人すべてが驚きの表情をしていた。ガイが砕いてその後を続けた。
「キムラスカはルークの死によってマルクトを滅ぼし、一時的な繁栄を得るが数年後には流行した病で世界は滅ぶんだよ。そこで預言は終わっている。だから第七譜石までしかないんだってことさ」
「じゃあ……ルークが死んでも無駄死にじゃない。なんでそんなのに従わなくっちゃいけないの?」
「さぁ?俺は終末預言から外れるべきだと思った。つまりそういうことだ」
 あり得ないと言うように疑問を口にしたアニスにガイはそう言った。
「俺がルークを連れて逃げたのは当然のことだろ?」
 ガイの言葉にナタリアは大きく頷き、目頭を押さえた。
「ローレライ教団はそのことを知っているの?」
 ティアが不安そうに尋ねた。自分は知らなかったと顔を青くしている。
「知っていても隠してる。いや、第七譜石は既に失われているから今の奴らは知らないのかもしれないな。ホドと共に第七譜石は地殻に沈んだはずだ」
「ねぇ……レプリカのルークはどうして預言に従うって言ったの?」
 アニスが小さな声でアッシュに尋ねた。
「もう外れてるんだよね?その世界の滅亡にはならないんだよね?だったらどうしてあの時ルークはアッシュに預言の通りにって言ったの?レプリカのルークは世界が滅んだ方がいいって思ってるの?それとも預言守ったら滅びるって知らないの?」

 アッシュはアニスの言葉に息を飲んだ。やはりあいつは過去を知らないのかと……ガイがそのことに気付いてほっと肩から力を抜いた。ヴァンの死に場所を探しているという言葉は都合よく失念していた。



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第二十四話



 レムの塔に直接アルビオールで乗り付けた。アルビオールの巻き上げる風に髪を靡かせてレプリカが立っていた。その手にローレライの剣があるのを確認する。レプリカはアルビオールを見ても、アッシュの姿を見ても身じろぎひとつせずに立ち尽くしている。アッシュはすぐにレプリカのところへと駆け寄る。
「どう言うつもりだ?!レプリカっ!」
 レプリカはまっすぐにアッシュを見て剣を差し出した。アッシュは奪い取るように剣を手にした。
「我を解放せよ」
「何を言ってやがる?」
「我を解放せよ。この契約を解除し、我を解放せよ。聖なる焔の光よ」
 抑揚のない声でレプリカは繰り返した。
「レプリカじゃねぇのか?」
 アッシュはレプリカの顔を真正面から見つめた。痩せこけた頬に隈ができ落ち込んだ目は先ほど会ったままのレプリカの姿だった。だが、表情がない。能面のようなままでアッシュをまっすぐに見つめている。白いテールを風に靡かせて立つ姿はアッシュの知るレプリカそのままだった。レプリカはおもむろにアッシュに両腕を伸ばし抱きついた。その身体は暖かく背中に回った腕がアッシュを包み込む。
「ただいま帰ってきた。約束通り」
レプリカがまだ生きているという実感をアッシュは得て、ようやく納得している自分に気付いた。思わず抱きしめ返してしばらく二人はそうしていた。
「何も起こらぬ……?」
 レプリカはそう呟いて抱きついてきた時と同じような唐突さでアッシュから離れていった。
「レプリカ……?」
「我はローレライ。この者に囚われている。この者がしたいと思っていたことをすれば欠片が散るかと思ったが何も起こらぬ」
 アッシュはそれでレプリカがローレライと契約をして、その力と第七音素を使い障気を中和したことを理解した。レプリカがアッシュを抱きしめたいと思っていたと聞いてアッシュはようやく落ち着きを取り戻した。納まるべきところに納まるべきものが返ってきたとでも言うような心地を感じていた。
 だが、覗きこんだその表情は先ほどと同じように無表情で瞳には何の感情もなくつるりとしていた。思わずその薄くなった肩を掴んで揺さぶった。
「レプリカ……どうした?」
「ヒトとは面白きモノだ。何も起こらぬことをこれほどまでに恐れていたとはなんと愚かで面白きモノ……」
「ローレライ。レプリカはどうしたんだ?」
「我を捕えているレプリカの器を破壊し我を解放せよ。それがこの者の定めし最後。我は障気の中和の代償にそれを契約した」
「最後だと?どうして……レプリカを出せ」
「我はこの器に囚われておる。レプリカと言うのはこの者のことか?」
「ああ、レプリカ!答えろ!囚われてと言っても……契約を解除できないのか?レプリカがした契約なら解除できるだろうがっ!」
「この者は既にここにはない。この器を破壊し、我を解放せよ」
「ここにいないとはどういう意味だ?レプリカは死んだのか?」
 ローレライは首を傾げてそれから理解したと言うように頷いた。
「この者の個はここからは出て来ぬ……ここで散ることを知っておったようだ。ゆえに我はその予測通りにここに来た。ここに来れば預言に従い解放されるとこの者は考えていた」
「レプリカはまだ生きているんだな?ローレライ!」
「生きていると言うのがこの欠片の存在を言うのならばそうなのであろう。この欠片があるゆえに我はこの器に囚われている。ゆえにこの器を破壊し我を地殻から解放せよ」
 レプリカは同じ言葉を繰り返した。
「そんなことをすればレプリカは死ぬだろうがっ!いいからレプリカ本人を出せ。話をつける」
「今は出て来ぬ。この者は恐れておる……しばらくは表面化することは難しい」
 アッシュは忌々しげに舌打ちをすると、レプリカの手を掴んだ。
「どうするんだ?ルーク?」
 ガイが心配そうにアッシュを見た。
「どうもしねぇ。あいつが出てくるまで待つしかねぇだろ?」
「我を解放せよ」
「今はしない。あいつと話すまで解放はしねぇから覚悟してやがれ」
 レプリカは困惑したように首を傾げた。
「この者はここで死ぬ」
「それをさせねぇと言ってるんだ」
「預言に従いここでこの器を破壊せよ」
「黙れローレライ。解放されたいならレプリカを出しやがれ」
「それはできぬ。この者はカラの中に閉じこもっておる」
「いいか!レプリカを消滅させてみろお前を解放などしてやらねぇからな。むしろ新しい契約で縛ってやる」
 アッシュが怒鳴りつけてその腕を引いてアルビオールへと向かう。レプリカは無表情のままに頷いた。
「うむ。しかし我は解放されたい」
「今まで待ったんだ、数日程度待て」
 アッシュに手を引かれたレプリカは子供のように大人しく後を着いて行く。その後を、苦笑を浮かべたガイが追う。
「レプリカと話をさせろ。後お前の知っていることを教えろ……」
 アッシュはそう言うと後は黙ってレプリカの手を引いてアルビオールへと乗り込んだ。アルビオールから降りる暇のなかった仲間たちは驚いた顔で戻ってきたアッシュとレプリカを迎え入れた。
「何がどうなってんの?」
「レプリカは無事だったようですね」
「無事とは言えないようだ。身体はあいつだが、ローレライだそうだ」
「!!」
 ローレライは黙って頷いた。
「なるほどローレライの力を使い障気中和をしたということですか」
 ジェイドは感嘆の声を上げた。
「よくルークにそんなことが思いつきましたね」
 嫌みを言うのも忘れない。
「ああ、確かにな。そのあたりはどうなんだ?ローレライ。こいつは何を考えていた?これから先をどうするつもりだったんだ?知っていることを教えろ」
 ローレライはアッシュに肩を押されて左右をアッシュとジェイドに囲まれたまま椅子に座った。首を傾げながらアッシュを見る。アッシュの隣にいるガイを見て少し笑みを浮かべた。
「何を笑ってやがる?」
「今我は笑っているか?そうか笑っているか……この身体が勝手にしていることだ。気にするな」
「つまりレプリカが笑ったと言うことか?今この状況でか?」
「そうだ。これは切に求めていた仲間との約束を守ることと、オリジナルに返すことを……だが、奪われることにも怯えていた」
「奪われる?何をだ?」
「すべてをだオリジナルにすべてを返したいと思いながらも、何もなかったことになってしまうことを恐れていた」
「?」
「大爆発ですね」
「そう言っていたか」
 ジェイドの助け船にローレライは大きく瞬きをした。
「そう言えばヴァンが、レプリカはアッシュが大爆発によって変わることを心配していたと言っていたな。本当にそんなことになるのか?」
 ガイが尋ねた。ローレライはふらふらと視線を彷徨わせながらゆっくりと話す。アッシュのところでローレライは視線を止めた。
「この者の抱える闇は深い」
 静かな声であっただけに聞いていた者を震撼させるには充分な言葉であった。
「レプリカは前の記憶を持っているのか?」
「前……なるほど。そうであったか……。前と言うならば前であるな。この者は罰だと思っていたようだ。やり直して過ちを償うつもりであったようだ。それでもお前には返せぬものがあると……なるほど。そうであったか。やはりルークよ。お前にはこの器を壊し我を解放せねばならぬ。それがこの者の……」
「願いだとでも言うつもりか?」
「この者は願わぬ。願いが未練になると……未練はまた繰り返す。だからこの者は願いはせぬ。それがせねばならぬことだ」


「レプリカは……今、ここにいるのか?ローレライ。あいつを出しやがれ!」
「さて……?」
 アッシュをまっすぐに見つめるローレライの顔の中心、鼻から紅いものが流れた。
「ふむ……」
 ローレライは手をやって不思議そうにそれを指で確認する。その指すらも少し透けている。
「おい……どうした?」
 鼻血を流し不思議そうな顔をするローレライにアッシュは狼狽し詰め寄った。ガイがさっとハンカチを取り出し、ローレライの鼻へと宛ててやる。
「この身体は思いの外脆いものだな……我がこれ以上干渉すると崩壊するやもしれぬ……この身体が崩壊すれば契約は解除される。その後に聖なる焔の光よ。我を解放せよ」
「そんなことをしてみろ。お前を地殻から解放などしない!レプリカを返すことが最低条件だ」
「ならばしばし我は干渉を控えねばならぬ」
 ローレライはそう言って目を閉じた。ルークの身体が操り糸を切られたように崩れ落ちた。アッシュは慌ててその身体を受け止め背もたれへと凭れさせた。



++++







++++


第二十五話



 ルークはそっと目を開いた。暗い空間の中で声がした。障気の中和をラジエイトゲートで行ったせいで、地殻に取り残されたのか?ルークがあたりを窺っていると声が聞こえた。すぐ近くで聞こえる。
「我を解放せよ」
「何を言ってやがる?」
 アッシュが怒鳴り返しているのが聞こえた。
「我を解放せよ。この契約を解除し、我を解放せよ。聖なる焔の光よ」
 ローレライとアッシュが話をしている。それはわかった。途端にルークは総毛立ち思わず己の身体を両手で抱きしめた。
「駄目だ!駄目!大爆発しちゃったのか?それともアッシュが俺とチャネリングしてまた俺を保護しようとしてるのか?駄目だそんなことしちゃ……」
 ルークはとにかくなんとかしようと考えているうちに、周りに黒い壁が縮みルークの周りを覆い始めた。
 よかった……
 ルークはとうとう魔界の海のような黒い塊の中へどぷりと浸かり覆われた。
 よかった。

 ルークはゆっくりと目を閉じた。これでアッシュからは見られない。アッシュを浸食することもない。

 良かった。
 そうして世界は閉じられた。



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第二十六話



 「なぁ。アッシュ?アッシュ?」
 何度呼びかけてもアッシュからの返答はない。ルークからはアッシュに回線を繋ぐことができないのは本当に不便だと思う。常々思っていたが、アッシュ?と声に出しても、心の中でチャネリングで話す時のようにしてみて呼びかけてもアッシュからの応えはなかった。
 身体が重くて動かないし、眠って起きたけれど夢の中にいるようなそんな感覚だった。この感覚には少し覚えがあった。ユリアシティでアッシュがルークをチャネリングを繋いで心だけ外に連れ出してくれた時の感覚に似ていた。
 またそれなのだろうか?それにしてはアッシュからの返事はないし、もしかしたらアッシュが寝ているのかもしれない。
 アッシュが眠っている時くらいはルークにもアッシュの身体は使うことができるのだろうか?と思ってなんとなくあたりを確認したいと思ったら視界が開けて外が見えた。アッシュが眠っている間はどうやら使えるのかもしれない。後で怒られるかもしれないが……とまで考えてからアッシュが死に瀕していたことを思い出した。
 慌ててルークは少し痺れた足を動かす時のような感じがする身体を動かして、アッシュの身体の具合を確認した。いつもの詠師服ではなかった。神託の盾の制服以外のアッシュを見るのは初めてだったので少し不思議な気分だった。当然服に傷はなく。身体にも怪我はなさそうだった。
 長い髪が白い服にまとわりつく感覚はルークには慣れ親しんだものだったが、毛先は色抜けがなくやはりアッシュの身体のようだ。ヴァン師匠に会う前にアッシュが一度死んだと認識してような気がする。それって何気に俺って酷くないか?と反省しつつ生きていたことを喜んだ。
 紛らわしいことをしたアッシュが悪い。そう一旦心に決めて先へと思考を進めた。そうしないとアッシュへの詫びと言い訳で独り漫才をしてしまいそうになったからだ。アッシュの体は怪我もなく無事だった。身体も少し動かしづらいが動かせないことはない。
 ルークはゆっくりと身体を起こしてアッシュの眠っていた場所を確認した。草はらだった。いや正しくはセレニアの花が咲き乱れる。夜のタタル渓谷だった。
「どうして、こんなところで寝てるんだ?アッシュの奴……危ないだろうが……マジで?」
 あたりを見回しても野営の準備がされているわけでもなく。仲間が誰か共にいる気配もない。魔物に襲われて行き倒れたという形跡もなかった。ただアッシュがぽつんと夜の渓谷でセレニアの花に守られるようにして寝ていた。
「いやいや……そもそも……エルドランドにいたはずだろ?もしかしてローレライの解放の衝撃で飛ばされたとかか?」
 それもおかしい。アッシュの怪我は治っているし服だって違う。まぁそこはローレライが気を利かせてくれたとしてだ……アッシュは俺をきっと助けようとしてチャネリングをしてくれてるのだとして、その受け取り方にはルークの欲目が充分に入っていることを認識しているが、いやアッシュはきっとルークの事を思って何かをしてくれたはずだ。
それで、俺の身体はどこだ?

 ルークはゆっくりと立ち上がってあたりを見回したが、ルークの身体は見当たらなかった。渓谷のはずれにエルドランドの姿が黒く浮き上がって見えた。
「あそこか?」
 ルークはため息をついた。
「なぁアッシュ……いい加減起きて俺に説明してくれよ」
 風に乗って大譜歌が聞こえた。ふらふらとそれに引き寄せられるように身体が歩み始めた。頭の中でアッシュが自己主張を始めているような気がした。月明かりの下でティアが大譜歌を空へと祈るように歌っている。その後ろに月明かりに照らされて金色の髪が光をきらきらとしている。ナタリア……とても愛しくて仕方ないって気持ちが溢れだしてそっかアッシュはそう思ってたんだなってわかった。なら早く起きてくれよって思ってるのにやはりアッシュはぼんやりとした湧き上がるような感情を伝えてくるだけで起きる気配はなかった。
 ガイを見てやっぱり懐かしいとか少しの羨望とか気に入らないとか、そんな複雑な相反するような気持ちが沸いて来て、ルークの嬉しい気持ちと相まって何とも言えなくてルークは目頭が熱くなって滲んでくる熱いものを堪えるのが大変だった。

 アッシュは全く持って起きる気配がなくて。みんなに会うのにどうしたものかと思いつつも、今更踵を返してエルドランドへと駆けもどるわけにもいかない。ならば仕方ないアッシュとして挨拶だけしておくべきか。もしばれたらその時に事情を説明しようか? 今その話をするとジェイドあたりが詳しく聞きたがるだろうし、ガイはきっと飛んでもなく心配するだろう。
だから何か変だと疑われたら、アッシュの中に同居中ですって説明をしよう。とにかく放置された身体が心配だ。
俺の身体早いところ取りに行きたい。アッシュとして挨拶してさっさとエルドランドに身体を取りに行かなくては……。




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