■■最新更新分■■

+++「夢見る頃をすぎて」16-20

 ガイルク。アシュルク。ヴァンルク?的なところもあります。ガイアシュ的な要素も含んでおります。大丈夫な方のみ進んでください。
こういうのなんて表現したらいいのかなぁと思ってたら便利な言葉がありました。
「ルーク総受け」です。たぶん……と言ってもルークがみんなを大好きでみんながルークを好きだというだけかも。

「ルークどん底」です。ルーク幸せしか認めないというような方は見るのをおやめになることをお勧めします。

逆行ものです。過去の一周目の話からはじまってます。
全部完結してから更新始める予定でしたが、そうすると5月すぎても更新できなさそうな感じになってきたのでとりあえず、様子を見ながら更新していきます。途中で修正が入ったり、つじつまあってなかったりすることはデフォルトです。頑張って合わせて行くつもりにはしております。

さっくりと書きたいところだけというタイプで短いお話を目指してます。

大事なことなので二回言っときます。「ルークどん底」です。ルーク幸せしか認めないというような方は見るのをおやめになることをお勧めします。






++++


第十六話



 ガイは混乱のせいで一拍遅れてルークの後を追ったが、既に迷路のように入り組んだ廊下にその姿を見つけることは出来なかった。ヴァンの計画も聞き出すことができない失態にガイは落ち込む余裕もない。ガイは混乱を抱えたままアッシュがいる特務師団の執務室へと向かった。
 廊下を歩いている間にも指先に残る柔らかな髪の感触が……懐かしい子供の香りが蘇る。記憶にあるままの嬉しそうに浮かべられた甘えた笑顔が懐かしい。ルークだとガイの心が喜びに湧き上がる。ならばアッシュは……?記憶にあるルークはレプリカだったのか?
 レプリカが言った言葉が蘇る『ガイが俺を育てなきゃ誰が俺を育ててくれるんだーってぇの!』俺はお前を育てはいない。夢の中のガイは赤子のようになったルークを育てていたような気がする。べったりと親子のような関係を築いていた。今のアッシュとガイの関係よりもっと濃密な関係だったように思う。
「どうしてレプリカが夢の……過去の記憶の事を知っているんだ?まさか……大爆発でアッシュの記憶を浸食しているのか?」
 そのことに思い至ってガイは背筋が冷たくなった。

 急いで部屋へと戻り扉をあけるなり、たまらずに名前を呼んだ。
「アッシュ」
 書類が高く積まれた机に突っ伏したままアッシュが寝てしまっていることに声をかけてから気付いた。起こすのも忍びないがアッシュに確認して安心したかった。大爆発は既に進行しているのかと……まさか記憶がレプリカに既に浸食されているのではないか?と……ガイは不安になったが、もしそうであるならばアッシュはガイに相談しているだろう。まだそのことに気付いていないのならば、アッシュに不安材料をガイが自ら与えてしまうことになる。
 大爆発とは最初はオリジナルの音素がレプリカに吸収されて、オリジナルが徐々に弱って行くのだと言う。最終的にはレプリカを上書きしてその記憶のみを継承するにしても一度は緩やかな死を経験するのだと……フォミクリー技術を開発したジェイドから聞いた。今は大爆発の回避方法を探してくれているらしいが芳しい報告はまだない。
 いずれ蘇るのだとしてもアッシュはそれを回避したいと思っていることは明白だった。その証拠に開いたフォンスロットを通じてのチャネリングという便利なものを使っていない。利用するために開いたフォンスロットだったが、それが大爆発を促進する作用があると気付いてからアッシュは使うことをやめている。アッシュは大爆発を望んでいない。それが始まっていると知ったらどんなに落胆するだろうか……そしてその恐怖はきっと計り知れないものだろう。
 机に突っ伏したまま眠るアッシュに毛布をかけてやりながら、眠る顔に先ほどのレプリカの寝顔が重なる。どちらのルークを守りたいと思っていたのかガイにはもうわからなくなっていた。だが……アッシュ……ルークのこの安らかな寝顔をあのレプリカが邪魔するというのなら、排除しなければいけないような気がした。
 そう一旦は決意をするのだが、先ほど見たレプリカルークの表情も話し方も声もガイの心を酷く揺さぶるのだ。それは記憶に合致するからなのか、アッシュを浸食している結果なのかガイには判断が付かなかった。


 ぐるぐると思考が同じところを巡り堂々巡りを始める。ガイは知らずと己の掌を見つめていた。確か記憶の中の己も復讐を思いきった時にこんな風に堂々巡りを繰り返していた。答えは自分の中にあることだけは分かっていた。それのつかみ取り方がわからない。
「戻っていたのか……ガイ……どうだった?」
「すまないヴァンは見つからなかった。部屋で待っていたんだが、戻ってこなかった。悪いいつの間にか寝てしまったらしくてこんな時間になっていた……それで……アッシュ」
「どうかしたのか?」
 アッシュは眠そうに瞼を擦りながら乱れていた前髪をかきあげた。
「レプリカに会った……話を聞く前に逃げられたすまない」
「会ったのか……どうだった?」
 アッシュの問いにガイはうろたえた。まるでどちらのルークを守りたいのかと迷っていたことや、不安になったことを見透かされたように思った。
「どうって……」
「だから元気そうにしていたか?」
「あ。いや、そう言えば顔色が悪かったな。酷くやつれていた」
「そうか、はやりレプリカにはパッセージリングの操作は荷が重かったのだな」
 アッシュは眠そうにしながらも、気の毒そうな声で言った。アッシュの優しさに触れてガイは誇らしさを感じながらも、レプリカの具合の悪そうな姿を思い出した。やはり二人の間に何かまずいことが進行しているのではないかと心配が募る。
「ああ……そうだな。アッシュは何ともないのか?音素が足りないとかそんなことはないのか?」
 ガイは思わず尋ねてしまった。さすがに大爆発が進んでいる兆候はないのかとは聞けなかった。
「いや、そういったことはないな……レプリカがそう言ってたのか?」
「お互い寝起きだったのもあって、よくわからないことを言われた後は、話をする暇もなく逃げられたから、どうなのかは俺には分からない……アッシュは……」
 思わずガイは口ごもり息を飲んだ。
「音素乖離……の兆候が出てるのか?」
 ガイの言葉にできなかった言葉を知っていたかのようにアッシュは小さく呟いた。
「アッシュっ!まさか!」
 ガイは咄嗟にアッシュの腕をとった。そんな兆候が出てると言うのだろうか?と確かめるようにその腕をぐっと握った。
「俺じゃない。レプリカだ。顔色が悪かったのだろう……あいつは俺より弱い。レプリカだからな乖離しやすいんだ」
 アッシュは心配そうに眉を顰めた。
「本当にアッシュにはそういう兆候はないんだな?!レプリカに記憶を奪われてるということはないのか?」
「どういうことだ?」
 ガイは思わず出てしまった言葉を悔いて口を噤んだ。
「ガイっ!!」
 アッシュがガイの両肩を掴み揺さぶった。
「言え!俺に関係することだろうがっ!レプリカに何かあったんだな?!記憶とはどういうことだ?」
「さっき言っただろ、寝起きで変なこと言われたんだ。レプリカが……夢の中でのことを知っていた。俺に育てられたと……でも違うんだ。あいつもそれは違うと気付いたらしく。狼狽してすぐに逃げ出したんだ。きっとレプリカも記憶が混乱してたんだと思う。だから……大爆発でお前の過去の記憶を覗き見たか喰ったかしたのかと……」
「過去の記憶があるのか?」
「いや、そうとも言い切れないが……俺の事を知っていた。俺に育てられなきゃ誰が育てるんだって……俺はレプリカを育てていない。顔を見たのもまだ二回目なんだぞ。なのに……」
 ガイは思わず手に残る感触を思い出してじっと掌を見つめた。
「ガ……イ……お前はどう思ったんだ?あいつに会ってどう感じた?俺に初めて会った時とどう違った?」
「え?……わからない。俺の守りたいのがどちらかなんてわからない……」
「そうか……」
「違うんだルーク!俺が今守りたいのはお前だ。だからっ……!!」
「いい。ガイ……たぶんお前が守りたいのはレプリカの方だ」
「違うっ!!」
 諦めたように微笑を浮かべたアッシュにガイは強く頭を横に振って否定した。
「守りたいのはルーク!お前だよ」
 アッシュは黙ってガイを抱きしめてくれた。
「レプリカがきっとお前の記憶を第七音素と共に喰ってるんだ……お前を害するなら俺は排除する」
 ガイは諦めを浮かべたアッシュの目を見て決意を告げた。
「駄目だ。あいつは俺のものだ手を出すな……俺が決着をつける」
 アッシュはまっすぐにガイを見つめ返し言った。
「お前があいつを守りたいと思うのならそれが正しい……」
「アッシュ……俺は」
 アッシュが舌打ちをして顔を背けた。耳が少し赤い。
「俺は本当は分かってたんだと思う。お前が間違えているのをな……だが、ガイ。お前が隣にいないことを考えたくなかったんだ。お前はあいつを育てていた。だから、それが正しい。かまわねぇからそうしろ。だが、あれを傷つけるのは許さねぇ」
「俺はレプリカを育てたのか?」
 はっきりとはガイに確信が持てなくて言いきれなかったレプリカを育てていたことも、守りたいと思っているルークを間違えているとアッシュに指摘され、レプリカを守るべきだとアッシュが言う。間違っていただと言う言葉を信じられなくてアッシュを見た。
「ああ……前はな」
アッシュの口からはっきりとそう言ったことが出たのは初めてだった。だが、それと同時に傍にいることを求められる言葉を聞いたのも一緒に亡命してからはなかったかもしれない。必要とされていることを実感して喜びが心に満ちた。それが今の真実だった。
「今はお前を育てたずっと一緒だったのはお前なんだよ。俺はだからお前を守りたいんだ。駄目か?ルーク」
 耳まで真っ赤になったアッシュは横を向いたまま再度舌打ちをした。
「駄目じゃない……」



++++







++++


第十七話



 懐かしい香りと優しい暖かさに縋ってしまっていた。アッシュに返したはずの過去に縋ってまた手の中にあると勘違いしてしまうなんて……ルークは自身のまだ残る甘えが恥ずかしかった。あれ以上顔を突き合わせているともっと縋りたくなってしまっただろう。俺のものだと叫んでしまったかもしれない。
 ガイに合わせる顔がなくて、ルークは咄嗟に逃げだして神託の盾本部内で兵士たちに捕まった。ヴァン師匠に部屋から出てはいけないと言われていたことを思い出してももう遅かった。いずれにせよガイと一緒にいるなんてことはできなかったから仕方ない。捕縛命令が出ているのだと言われ牢屋に入れられてその後は移動のために船に乗り、そこでも船倉に閉じ込められた。
 暗い牢屋や船倉ではすることもなくルークはつらつらと夢を見ながらも考えていた。なぜ再びやり直しているのかを何度も考えてみた。そして最善と思われる方法を選んだつもりだったが、それは本当に合っているのだろうかと不安になった。それを確かめる相手もいない。孤独とはこんなに辛いものだったのだと改めて感じた。アッシュは以前きっとこんな気持ちだったのだろう。アッシュから仲間を奪っていた罰なのだと思った。
 
 ガイはルークと知り合ってもいないことになっていて、ルークを支えてくれた言葉も約束もなかったことになってしまった。一緒に旅をして帰ってこいと約束してくれた人達とも知り合えたが、約束をするほどの仲間には成れなかった。むしろ敵対している。きっとアクゼリュスを崩落させてしまったことを知って軽蔑している。ぶるりとその時の事を思い出してルークは身体が震えた。
「楽しかったことだけ思い出そう……」
 ルークは暖かな記憶の中でまどろんだ。これは俺だけのものだ。これだけはアッシュにだって返せない。俺だけの思い出。俺だけの想い。その言葉の意味の重さも理解せずに、おこがましくもアッシュにすべて返すと言った。それの意味するところを理解して少し泣いた。
怖い。
すべてがなかったことになる前に、アッシュに記憶を取られる前に消滅するしか道はない。死ぬのは怖いけど……だけど。たぶんそれが一番いい方法だ。アッシュにレプリカがこんな情けない奴だと知られたくなかった。大爆発が起きる前に、少しでも早く障気を中和してそしてローレライを解放する。作られた理由であるルークの代わりに預言に従う。そうすればローレライもきっと満足して、ルークもすべての柵から解放されるはずだ。

 ようやくたどり着いた先がユリアシティだった。そこでも独房へと拘束され、会議が行われるまで待つようにと言われた。

 何日たったのかわからなかったが、持っていた薬は数日前になくなった。障気中毒でふらふらになっているルークは独房から会議場へと引き出された。会議の席には各国の王とその重鎮が居並ぶ。ピオニーが興味を隠さずにルークを見つめ、なるほどと驚きを表わす。そう言えばピオニーの顔を見るのは初めてだったことをルークは思い出した。父はルークが視線を向けるとそっと顔を背けた。見ていられないと言うような表情はルークの知っている彼の姿には重ならなかった。少しは愛しいと思っていてくれたのだろうか?それともこの薄汚れたみっともない姿を息子のレプリカだと思いたくないだけだろうか?前者ならばルークの気持ちは慰められるが、きっと今回のことに心を痛めているだろう。後者ならばそういった風に苦しめることにならなかったことがせめてもの救いだ。愚にもつかないことを考えていると声をかけられる。
「お前はレプリカルークで相違ないか?」
 中央に座るユリアシティ市長のテオドーロが固い声で尋ねた。ルークは床に跪いたまま崩れそうになる体を起こして頷いた。ここに来るまでずっと牢屋か独房、移動中の船倉などで体力はほとんど残っていなかった。じりじりと障気はルークの体を蝕んでいく。日がたつにつれ慣れるどころか、酷くなっていくばかりだった。ティアから失敬してきた薬も既に尽きていた。ユリアシティについてからはここの清浄な空気が少しだけルークの体を癒してくれてはいた。
「お前が独断で大陸を降下させ、世界を混乱に陥れた罪について問う」
 ルークはテオドーロを見上げた。そういう話になっているのかと周りを見回せば、誰もそれに反論を挟む者はなかった。
「その方が持っている特殊な力を使い大陸を降下させたことは間違いないな?」
 問われてルークは再び頷いた。
「そうです。俺がやりました。このまま放置しておけばパッセージリングが壊れて崩落してしまう……」
「余計なことはいわなくてよろしい。『はい』か『いいえ』だけで答えよ」
「そのようなことは我々も知っていた。そして計画的に対処する予定であったのだ。お前もそれは知っていたのであろう?こちらの準備していたことを利用したと聞いたぞ」
 確かにパッセージリングの書き換えの半分はアッシュによってされていたので、ルークはその残り半分を書き換えた。最後のパッセージリングを書き換えたのがルークだったので、降下を始めたのがルークの手によってだったことも間違いなかった。アッシュと協力体制にいるような気がして密かに喜んでいたことを見透かされたような気がしてルークは己を恥じた。
「はい」
 悪意に満ちているような会議場は居心地が悪くてルークは、まだ湿って暗い独房に一人いる方がましだったと思い始めていた。記憶している過去と違った時間を過ごしている限り今後どうなるのかはルークにはわからなかった。ヴァン師匠もまだ生きているし、ヴァン師匠の計画がどの程度進んでいるのかもルークにはわからない。そもそもレプリカホドであるエルドラントがすでに陸地として存在していることもルークにとっては不確定要素だった。
 いずれにせよ。後は障気が溢れてくればそれを中和し、ローレライを解放すればルークのお役もごめんとなる。それまでの辛抱だった。跪かされた膝が痛かった。
「有罪ですな」
「どのような罰を与えれば国民は納得するであろうか?」
「しかし功労者でもあります。褒美があっても……」
 ルークを気の毒そうに見ていたイオンの声がかき消され、代表たちはルークに与える罰を相談し始めた。そうかまだ障気が溢れていないから、死んで障気を中和しろとは言われないのかとルークはぼんやりと人ごとのように見ていた。急に慌ただしい足音が近づき、扉が乱暴に開かれた。一斉に人々の視線が扉へと向かう。紅い髪と黒の外衣のアッシュ。その傍らに金の光が控えたようにガイとナタリアが立つ。扉の影からジェイドとティアが顔を出した。
「会議中ぞ。何事か?!」
「緊急の連絡です」
「大変なことになっておりますの!」
「申してみよ」
 口々に言う彼らの言葉をキムラスカ王が代表して問いただした。それに対してナタリアが答える。
「陛下。降下し安定していた大地のあちらこちらから障気が溢れだしております。その勢いは日増しに増え世界を覆い尽くさんばかりです」
「なんとっ……」
「障気の濃いところでは体調を崩す者も出始めております」
 彼らは会議場の中心へとゆっくりと歩きながら説明を始めた。
「こうなることは分かっていたであろう」
「はい。そのためにタルタロスを改造し地殻に沈め振動を抑えましたが、なにぶん大陸を降下させるのが少し早すぎましたね」
 ジェイドの言葉にルークは思わず身を小さくした。そうだった。先にタルタロスで振動を抑えてそれから大陸を降ろしたんだった。どちらにせよ障気は溢れてきてたけど……アニスが責める目でルークを見下ろしていた。
「そこの屑が考えなしに行動したからな……するなら相談すればいいものを……」
 厳しく凛々しいアッシュの声が懐かしく感じた。責めているのにどこか優しく聞こえるのはなぜだろうか。ルークは思わずそっとアッシュの方を見上げた。やはり少し穏やかな表情でルークを見ていた。少し笑っていた。
「そう怯えるなレプリカ……お前は俺のレプリカだ。お前の失態は俺の失態とも言える。次からは何をするにも俺に聞いてからしろ。わかったな?」
 ルークは思わず頷いてしまいそうになるほどの優しい声だった。相談などしたらまたアッシュに迷惑をかけてしまうんじゃないかとルークは不安になった。俯き口を固く噤んでしまったルークにアッシュは苛立たしげに歩み寄りルークの頭に手を置いた。
「てめぇにはそうするしか道はないんだ……レプリカ」
そしてアッシュはしゃがみこみ視線をルークに合わせると小さな声で低く言った。ルークは怖くなってアッシュの視線から逃げた。
「だって、俺は……まだしなければいけないことがある」
「ヴァンの計画か?」
 ルークの小さな呟きにアッシュも小さく尋ねた。ルークは首を横に振った。
「違う……ヴァン師匠は関係ない……俺がしなくっちゃいけないこと」
 アッシュとルークが小さな声で話している間にはジェイドが代表たちと障気中和の計画について話し合いをしていた。
「何をするつもりだ?」
「障気の中和」
「使うべき大量のレプリカはいないのにか?それにローレ」
 アッシュの言葉にルークは驚きでアッシュを見上げてしまう。言葉の途中だったアッシュが満足そうににやりと笑った。ちょうどジェイドが障気を中和するのに大量の第七譜術師の犠牲がいると試算を述べていた。
「レプリカは……」
 そうだ。まだヴァン師匠はレプリカを作っていない。
「レプリカ施設は破壊した。いくら待ってもレプリカは生み出されない……どうする?」
 アッシュが獲物を追い詰めたと言わんばかりに笑みを浮かべてルークに尋ねた。ルークは咄嗟に叫んだ。
「レプリカホドを使う。あれを使って俺が障気を中和する!」
 偶然静まり返っていた会場内にルークの声だけが響いた。アッシュは驚いた表情をした後に舌打ちをした。
「どういうことだ?第七譜術師の犠牲がなくとも中和できるのか?レプリカよ」
 ルークは頷いた。
「そのレプリカホドというのは?」
「エルドラント……」
「なんと……」
「あれは譜石が落下してできた島だ。レプリカなんとかじゃねぇ!!」
 アッシュが強い口調で否定した。本当はレプリカホドだと知っている顔だった。なんとかそれを隠したいと思っていたことは明白だった。
「アッシュ……」
 ルークはアッシュの希望に添いたいと思いつつ他の方法が思いつかずに言い募った。
「でも、あれなら障気は中和できる」
「譜石でいいならバチカルも譜石の街だあそこを使え」
 ルークは思わず息を飲んだ。呼応するようにキムラスカ勢から否定の声があがる。
「てめぇはガイから二度も故郷を奪うつもりか?!俺は認めねぇぞ!」
 アッシュがルークにだけ聞こえるように耳元に顔を近づけ言った。ルークはその言葉に絶句して俯いた。本当だ。思わずアッシュの隣に立っているガイを見上げた。ガイはアッシュの言葉に驚きながらもその心遣いに感激しているのがよくわかった。ルークが絶句したことにアッシュが詰め寄った。
「まさか……お前、本当に俺の第七音素を食って前の記憶があるのか?」
 ルークはその言葉になくしたくない記憶を持っていることを責められると思い怯えた。何がすべてを返すだとアッシュに詰られるのではないかと目を反らした。そうしている間にも周りで計画についての話が進んでいく。
「エルドラントなら居住人口が少ないそちらの方がよいに決まっておろう。バチカルの住人を移住させるなど何年かかると思うてか!!」
「エルドラントの民はキムラスカとマルクト両国が責任を持って移住地を見つけよう……ぜひとも。ちょうど領主殿もおいでだ。なぁガルディオス伯爵。それで了承してくれぬか……」
「世界のためなら……仕方ない……」
 ガイが振り絞るように言う言葉にルークは心がぎりぎりと音を立てて握られているような気がした。何か他の方法はないだろうか……何か第七音素の塊は……ローレライが思い浮かんだ。かつてヴァンがローレライの力を取り入れそれを使っていたことを思い出した。
「俺、アブソーブゲートに行きたい。そこでなら……エルドラントを使わなくてもできると思う」
「思うだと?一体何をするつもりだ?」
「何?他の方法があるのならそれがよい。一番犠牲の少ない方法がよいに決まっておる」
 すぐにレプリカをアブソーブゲートへ連れて行けと命令が下った。アッシュのみならずあっさりと命令が下ったことに内容を吟味せずにその方法をとるのかとジェイドが疑問視したが、混乱を来していた会議場は騒然としており、収拾がつかなくなっていた。アッシュたちは負けずとその流れに抵抗しようと反論している。
 混乱の中兵士に引っ立てられてルークは会議場から外へと出た。振り返りルークは大きく重たい扉が閉じられるその隙間から彼らの姿が見えなくなるまでじっと見ていたかったが、力強く引かれルークは兵士に後に続いた。
アッシュ、ガイ……みんな……さよなら……



 ノエルの操縦するアルビオールでアブソーブゲートへと向かう。ルークが逃げ出さないようにと兵士に囲まれて最深部へと向かった。ルークには魔物と戦うだけの体力が残っていなかったので周りを固め、魔物と戦ってくれる兵士たちはとてもありがたかった。
 ルークは記憶にあるヴァン師匠が落ちた深淵の入り口へと足を進めた。



++++







+++


第十八話



 王を守る兵士ともみ合いになり、混乱している間にルークの姿が消えていた。アッシュはルークを探して辺りを見回すが、ルークはいない。アッシュは一人人ごみから外れてルークの姿を探した。
 正面の大きな扉が軋み開かれようとした。
 一斉に視線がそちらへと集中する。堂々とした立ち振る舞いのヴァンが会議場へと入ってきた。
「ずいぶんと白熱しているようだが、ルークの釈放を申し立てに来た。ルークはこちらだと聞いたのだが?どこにいる?」
「釈放だと?!やはりお前の差し金でレプリカは!」
 いきり立ちヴァンに詰め寄っていくアッシュにガイは間に入ってアッシュを守ろうとする。
「差し金ではない……あれは己の正義のために純粋な思いでつらい仕事を成し遂げただけのことだ。なぜそれを責める?」
「よくもそんなでたらめが言えたものだな!レプリカを利用して何をするつもりだ!ヴァン!!」
「今はそんな話をしている場合ではない。ルークはどこにいる?あれはほっておけば長くは持たぬ。いや、すでにお前たちが殺したか?」
「何を言ってやがる!てめぇがレプリカを殺そうとしてたんだろうがっ!!」
「アッシュ!落ち着け!どういうことだヴァン?」
 ガイがアッシュを抑えて問うた。
「あれは重度の障気障害に罹っておる。そろそろ持っていた薬が切れる頃。あれは……私が言うのもおかしいことは分かっているが、あれは死に場所を探している」
「総長が殺そうとしてただけじゃないですか!それを!死に場所を探してるとかいうのは変!!」
「ならば、あれは死にたがっていた。と言えば分りやすいか?」
 不服げに反論をしたアニスに向かってヴァンは苦笑を浮かべた。不審そうな顔をして話を聞いていた面々を見回した。
「あれは己の中で決めた死に相応しい時期と場所を決めておるようだった。どうやって死ぬつもりかは知らぬが、今日会議がありルークへの審問があると知って慌てて来たのだ。諾々とルークが従っているのならば、今がその時だときめているのかと。もしやこの会議で罪に問われ死刑が確定すればあれはきっとその判決に従うだろう。だが、私はルークを惜しむ。あれは何も知らぬし、何もしておらぬ。世界のために尽くしているだけのことだ。それに……ルークを死なせては世界を救えぬと言ったのはアッシュ。お前ではなかったか?」
「あ、ああ……だから俺はあいつが勝手なことをしないように。ヴァンお前に唆されて罪を犯さないようにと見張る義務がある。お前などにあいつを利用させたりしない」
 アッシュはヴァンに出番などないと切って捨てた。
「ヴァン!お前はもう復讐は諦めたというのか?」
 ガイが一歩前に踏み出してヴァンへと尋ねた。
「復讐など初めから考えてはおらん。この預言に縛られた世界の未来を憂い、新たな未来への道筋を作ろうとしただけのこと……それもお前たちにより邪魔されたがな」
「では、もうレプリカ計画は諦めたのか?」
 アッシュはそれはよかったと鼻で笑った。
「レプリカ施設が破壊されては作れまい。それにあれがそんなことをせずとも未来をお前たちが作ると言ったのでな。その賭けに乗ってみることにしたのだ。失敗すればその時だ。まだ手はある」
「レプリカが未来を?」
 アッシュとガイが顔を見合わせた。
「「やはり、レプリカも記憶を持っているのか?」」
「レプリカといえども人とは変わらぬ。今まで生きた記憶はあれのものだ。アッシュ。例えお前が完全同位体のオリジナルとはいえ、大爆発まではレプリカとはいえあれも一人の人だ。記憶もまだお前のものではない。とはいえ私もルークを見ていてそう考えを改めさせられたのだがな……」
 ヴァンがアッシュにゆっくりと語った。
「大爆発……どこでそれを……」
「レプリカが心配していた。お前があれの記憶をとりいれて変わってしまうことをな」
 ヴァンの言葉にアッシュはガイから視線をヴァンへと向けて、ゆっくりとジェイドへ顔を向けた。ジェイドは芳しくはないが了解しているというような表情を作った。
「いや、大爆発は眼鏡に回避方法を調べてもらっている。レプリカなぞに心配してもらう必要などない」
 アッシュはそれを認めてから再度、会議場内にレプリカを探して視線を彷徨わせた。
「どうして……レプリカがそれを知っている?あいつは何をしようとしているんだ?あいつは……どこだ?!」
「また逃げたんだ……」
 辺りを見回してルークの姿がないことを確認して、アニスが悔しそうに逃げたと騒ぎ始めた。兵士に取り囲まれていたルークが逃げることなどできるはずもないのに、感情的な言葉でいないことを騒ぎたてることにアッシュは感情を抑えることができなかった。何を言ってやがると口を開こうとした時に先にジェイドが両手を打ち、音を響かせた。
「先ほど連行されていきました。たぶんアブソーブゲートへと向かったのでしょう」
 一瞬静まり返った会場内をジェイドが確かめるように居並ぶ代表たちへ見渡した。
「そのように命じた。被害が少なくこの障気を消すことができると言うのだ」
「だからっ!それが嘘だったらどうするのって言ってるんじゃない。アクゼリュスみたいに崩落させられたり、勝手に大地降ろしたみたいに何か勝手なことするかもしれないでしょー!」
 アニスは憤って叫んだ。
「いえ。そうとも言い切れません」
「え?大佐はどっちの味方なの?!」 
ジェイドはアニスを制して言葉をつづけた。
「ルークは世界を滅ぼすつもりはないようですし、ただなんの確証もない言葉に踊らされるのはどうかと私も思います。それに私の計算では第七音素のほかに超振動を増幅する装置が必要になります。まだそれは開発すらされていない。レプリカがそれをどうするのか確かめ、きちんと確認してからでもその作業は遅くないのではありませんか?追ってもよろしいでしょうか?」
 ジェイドの最後の言葉はピオニーへと向けられていた。
「そうだな。確かに何をするつもりなのかレプリカは言わなかったな」
 ピオニーは頷いてジェイドに許可を出した。むろん他の代表も異論はないことを確認しジェイドが退室するのをアッシュは後を追った。ヴァンにまだ聞きたいことはあったが、ヴァンはこの場に残りルークの刑罰の軽減を嘆願するつもりのようだった。
「増幅装置……そうだ……あれはまだない……レプリカはどうするつもりだ?」
 やはり人の記憶を覗き見た片言の未来でどうにかするつもりらしい。あいつの持っている過去の記憶がどの程度か知らないがローレライの鍵をなしにどうやって中和するつもりなのだろうか。




++++






++++


 第十九話


 レプリカが己の思い通りにならないという憤りと焦りがアッシュの中で渦巻いている。アッシュのレプリカなのだから己の言うとおりに動くべきだと言う思いと、記憶の中では親鳥を慕うようにどんな辛辣な言葉を投げかけてもレプリカはアッシュの後を追って来ていた。それに比べて現状と言えば、レプリカはアッシュの思惑を外れ勝手な行動をしている。アッシュの言葉に従う様子もない。手を差し伸べればレプリカは迷うことなくアッシュの手をとるだろうと思っていただけに、アッシュは大きな穴のような落胆を誤魔化すことができなかった。
 保護下に置くべきだという激しいまでの強迫観念めいたものが、アッシュを苛立たせた。どうして裏切り道具として扱ったヴァンにそこまで従うのか。心を許しているのか……アッシュは舌打ちをする。どんなに考えても答えはでない。レプリカのことを思い返してみれば浮かぶのは過去のレプリカの顔ばかりだった。アッシュは過去にすれ違い続けたレプリカのことは多少なりと知っているが、今生のレプリカについては知らないことに気付いた。
 フォンスロットを開くときに意識を失ったレプリカの顔を見た程度だ。その後もすれ違いばかりでまともに会話したのは先ほどの言葉が初めてだったように思う。痩せてしまった姿が憐憫を誘う。アッシュの声を聞いて少し安堵したような見慣れた表情をしたので、アッシュは大丈夫だと確信した。なのにすぐ後には俯いてアッシュを拒絶する。レプリカはアッシュに帰属するべきもので、アッシュはそれを保護すべきなのにレプリカはそれを拒絶して気がつけばいつもアッシュの前から消えている。
 弱り切った身体で捨てられた子猫のような顔をするくせに、その目はまっすぐとどこかアッシュの知らないところを見つめていた。孤独の淋しさを瞳に滲ませて、それでも迷いはない。あの表情は見たことがあった。音素乖離と大爆発いずれにせよレプリカには未来はないことを知っていた決戦に向かうルークの姿に重なった。
 あいつは同じように過去を知っているのだろうか?アッシュが口を噤んだことも何もかもあいつは知ってるのだろうか?それともガイが言うようにアッシュの音素が大爆発により流れこみ、同時に記憶も共有しているというのだろうか?

 追わなければ。と思うものの追ってどうするのか?と迷いが生まれる。きっとガイとレプリカがもう一度邂逅すれば、ガイはアッシュの元を離れてしまうだろう。そしてレプリカにアッシュが間違いに気付いていながらも口を噤んでいたことがばれてしまうだろう。知られるのが恐ろしかった。レプリカにオリジナルの弱さが露見するのは困る。レプリカはアッシュにとっての保護対象なのだから……
 それでも追わないという選択はなかった。会議場を出て行くジェイドに触発されてアッシュもその後を追った。振返るとガイがヴァンに何か手渡されている。アッシュに追いついてきたガイに手の中の事を尋ねた。
「ヴァンから何を受け取ったんだ?」
「ああ、レプリカの障気中毒の薬だそうだ」
「そうか」
 何をヴァンに言い含められてきたのかは知らないが、ガイの表情は強張っていた。アッシュは何も言えずに頷いた。以前聞いた『やつれていた』と言うのは大陸降下のせいではなかったということだろう。ガイが緊張を解きほぐすように吐息を吐いた。
「心配か?」
「いや……」
 ガイは一度咄嗟に否定してから、一拍置いてからそうだなと頷いた。
「急ごう。その薬を渡すんだろ?障気を中和する前に乖離などされえてはたまらんからなっ!」
 アッシュはガイの背中をこれでもかと力を込めて叩く。歩く速度を速めて廊下を突き進んだ。心配でないわけがない。たぶんあのレプリカも過去の記憶を多少なりと知っている。アッシュはそんな確信めいたものができ始めていた。ガイは否定するだろうが、記憶はどのくらい持っているのだろうか?辛く苦しい記憶を持っていなければいいのだが……とまで思ってからアッシュはそれが無理なことがすくにわかった。 誰しも多少なりと苦しく辛い人生なのだ。そして少しの甘く優しい記憶。それはあれにもあっただろうか……
 アッシュはレプリカから奪ったことになるであろう楽しく甘く優しい記憶を持つことができた。ならば今度はアッシュが障気を中和し、ローレライを解放する番だと決意を新たにした。


 ジェイドをはじめナタリア、ティアの乗り込んだアルビオールにアッシュとガイも飛び乗った。すぐに急上昇を始めるアルビオールに誰もが無言で席に着いた。勝手を知っているギンジは速やかに機体を発進させた。
「ローレライの剣も消費するレプリカもなしにあいつはどうやって障気を中和するつもりだ……?」
急発進に軋む機体の音にまぎれさせるように、アッシュは青い空を見ながら呟いた。それを聞き咎めたガイが尋ねた。
「それを聞きたかったんだアッシュ」
 隣に座っていたガイがアッシュを覗きこんでいる。
「あ、ガイは知らないのか?」
「ああ、超振動を使うということしか、俺はお前たちが二人でそれをしたことは知っている。そしてそれがルークの命を縮めたことをな……大丈夫なのか?レプリカはどうしてそれを知っているんだ?あれの知識なのか?本当にお前の記憶を喰ったのか?アッシュ……」
 ガイはある推論が正しいことを予感し声が震えている。
「喰ったかどうかわからねぇが、あいつは知っているんだろう……そうとしか思えない」
「本当に身体はなんともないのか?記憶にぬけがあるとかはないのか?」
「ないと言ってる」



++++






++++


第二十話


「障気を中和する方法を本当に知っているのですか?ルークだけではなくあなたも?」
 興味深そうにジェイドが二人を見下ろしていた。
「それとあれの知識とは?」
いつの間にかアルビオールは安定飛行に入っていたらしい。アッシュが口を噤んだままなのをいいことにジェイドは言葉を続けた。
「先ほどのヴァン謡将との会話にも記憶と言っていましたね。ヴァン謡将は大爆発のことをおっしゃっていたようですが、あなたはどうやら違うことを言っていたようです。あなたたちとレプリカだけが知っているその記憶と知識とは何のことですか?この世界の危機を救うのに必要な知識ならば私たちにも知る権利があると思うのですが?」
 アッシュは反論することができず、ガイに助けを求めるがどうやらそれは無理のようだった。ガイはじゃああの言葉はどういうことなんだ?と何か気になることがあるようでそのことを考えこんでいて全くアッシュを見ていなかった。
「ガイ……」
「ルーク。お願いですわ。世界のためにもそのことを私たちにも教えてくださいな。何かお力になれることがあるかもしれません」
 ナタリアに縋るように請われてはアッシュにはもう逃げ場はなかった。
「しかし……俺にも良くわからない。あのレプリカが知っているのかどうかもわかったわけじゃねぇ。俺のレプリカだと言うが、あれが何を考えているのかなんて俺にはわからねぇ……完全同位体だと言うが俺の範疇じゃねぇ」
 言いながらも苛立ちが募ってくる。アッシュは責めるようにジェイドを見た。レプリカとは片割ではないのか?と目で問うた。
「ですが、障気中和の方法をご存じなのですよね。レプリカがそれをするかどうかは別として、その方法を教えてください。何かいい手が他にあるかもしれません」
 ジェイドはアッシュの問いを黙殺したのか、そのことには触れずにもう一度問い直した。
「あ、ああ……」
 アッシュは夢で見た増幅装置としてローレライの剣を使いレプリカか第七音素素養を持つ者を分解する障気中和の方法を語った。
「ローレライの剣がそのような役目を果たすとは……しかしローレライの剣はどこに?」
「しるか……それで中和できるって言うだけだ。あのときは既にローレライから剣と宝珠を託されていた。だが、今はないそれだけのレプリカもここにはいないからな。もしかするとレプリカが持っているのかもしれねぇな……」
「ローレライの鍵をか?」
 ガイが驚いて口をはさんだ。
「ああ、俺は宝珠も剣も持っていない。レプリカがローレライに託されたのかもしれねぇ。あいつはずっと頭痛や幻聴に悩まされてたんだろ?ナタリア?」
「ええ……そうですわ。そして錯乱し……て、あのごめんなさいそう聞いてましたの……暴れると危険だからと私もあまり会えませんでしたからよく知りませんが……会えるのは薬で眠っている時だけでしたの」
「いや、いい。なら、ローレライから受け取っているのかもしれないな」
 ナタリアが言葉を濁しながらもレプリカの屋敷での様子の伝聞を伝えた。ガイが納得したように頷いた。
「ではルークは増幅器を持っている。それでルークのエルドラントいえ、レプリカホドを使うという話になったのですね」
「あれは……」
「あれはそちらのガルディオス伯爵の旧領地ホドのレプリカだったのですね。どうしてそれをあの世間知らずのルークが知っていたのでしょうか?」
「ヴァンにでも聞いたんじゃねぇのか?あれはヴァンがレプリカ技術を使って作ったものだ。あいつはいずれ全大陸をレプリカに置きかえて人もレプリカにするつもりだったようだがな」
「この間破壊したレプリカ施設がそのためのものだったのですね。なるほど……」
「では、使えるコマのないルークは何を使って障気中和をすつもりなのでしょう」
「知るか」
「アブソーブゲートに何があるというのです?」
 ジェイドの追及にアッシュは言葉を失い、首を横に振った。アブソーブゲートで何があったのかアッシュは知らない。知っているのはレプリカとこいつらがヴァンを追い詰めて詰めが甘かったばかりにその後の犠牲を生んだと言うことだけだ。アッシュはラジエイトゲートからレプリカの手助けをして大地を降ろす手伝いをしたことも知っている。だが、その場で何があったのかアッシュは知らない。どうせレプリカがヴァンを前に情が捨てきれずに決着をつけることができなかったのだろう。
 やはり屑めという感想しかない。しかし心は切なく痛みを覚える。先ほどの跪かされた哀れな姿を思い出す。守ってやりたいと思うのにあれはアッシュの手を払うのだ。それが苛立ちを生む。二人で障気中和をするのではないのかとアッシュは記憶との齟齬に不安を覚える。
「ガイ……」
あの時共にいたガイは何か知らないかと窺うがガイは再び何か気になるのか遠くを見たままだった。心を過るのは何かを奪われてしまう焦燥と奪ってしまったという不安。
それと別の可能性にアッシュは思い至り愕然とする。
「まさか……あいつも過去の記憶を持ってるとでもいうのか?」
 レプリカしか知らないアブソーブゲートの記憶。そこへ行けば中和できると言いきったレプリカ。アッシュの知らない過去を知ると言うのならそれはレプリカ自身の記憶を持っている可能性が生まれる。
「ガイ……」
 アッシュは思わずガイの袖を引いてしまった。顔色を失くしたアッシュにガイはうろたえた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「あいつがもし俺たちと同じで……知っていたら?」
「まさか……本当に俺たち以外に?」
「考えたくはなかったが、レプリカがもしそうだとしたら辻褄があわないか?」
「そんな……馬鹿な……ことが」
「俺の知らないことを知ってるというのなら、そうとしか考えられねぇだろ。あいつは記憶を持っている。そうでなければ俺の知らないアブソーブゲートへ行く理由がわからねぇ。何かをしようとしている。たぶん……犠牲を減らそうとしている」
「そんなはずがない。だったらどうしてアクゼリュスを崩落させたんだ?それにヴァンについて行く理由にもならないだろ?」
 ガイの言葉も当然だった。わかっていたならアクゼリュスの崩落は防げたはずだ。それにおめおめとヴァンに操られることもなかっただろう。そしてその後にヴァンに従うはずもない。やはり記憶を持っている可能性はないか……
 アッシュはガイの説得に対する言葉を持たなかった。不安に揺れてしまった視線にガイは大丈夫だと言うように肩を抱いて、頭を撫でた。
「きっとお前の知らない記憶はレプリカに持っていかれたに違いない。俺がお前を守ってやるからな」


「行く以外ないということですか。レプリカルークに直接尋ねて答えを得るしか方法はありませんね」
 ジェイドは諦めたように苦笑を浮かべ、話をまとめた。
「アッシュ。チャネリングはどうだ?」
「あれは……」
 ガイの言葉にアッシュは首を振った。これまでに回数を減らしながらも数度試していたが、クリアに繋がることはなかった。ヴァンが言っていた重度の障気障害のせいだったのだろう。レプリカを意のままに操る手段も絶たれ、あれの独断の暴走を止める方法はない。
「それであなたは大丈夫ですか?どこか身体に不調は出てませんか?」
 アッシュの説明にジェイドが尋ねた。
「大爆発。その兆候は既にありますか?」
「少しだけな……だが、大事ない。チャネリングも使わないようにしている」
「いまだ有効な手立てを立てられなくて申し訳なく思ってます」
 ジェイドは目を伏せて席に戻った。




++++











inserted by FC2 system